ロシアによるウクライナ侵攻は新たな段階に入り、長期化の様相を呈している。これ以上犠牲を増やすべきではないとする「ウクライナ降伏論」は論外だが、ロシアへの経済制裁に伴う物価上昇の痛みが出てくれば、戦争終結が最優先だとする「早期停戦論」が広がる恐れはある。目先の影響に揺らぐことなく、ウクライナの精神である「自由」という普遍的価値をともに守るため、長期戦も恐れない覚悟が日本にも求められる。
現実を忌避する停戦論
首都キーウ(キエフ)近郊でのロシア軍撤退地域のむごたらしい写真、街を人命ごと破壊し尽くす東部地域の廃虚群の映像は途切れることがない。降伏論や早期停戦論は、受け入れがたい事実を忌避する厭戦(えんせん)気分から出てくるだろう。
しかし、最も受け入れがたいと考えざるをえない状況に置かれているのはウクライナ国民である。この状況下でも彼らの9割超が、徹底抗戦を続けるゼレンスキー大統領を支持。東部要衝マリウポリの攻防でゼレンスキー氏はロシアの投降要求を拒絶し停戦協議の打ち切りも示唆した。
国全体の強固な意志はどこから来るのか。それは支配と抑圧を受け続けた末、独立を勝ち取った国歌から、知ることができる。
《ウクライナの栄光も自由もいまだ滅びず、若き兄弟たちよ、運命はいずれ我(われ)らにほほえむだろう》
20世紀にウクライナは2度独立した。1917年のロシア革命時に独立を宣言したウクライナ中央ラーダ政権が採用した国歌は、91年のソビエト連邦崩壊後の独立に伴って継承された。国歌はこう締めくくられる。