琥珀(こはく)院 一
房栄(ふさひで)は反逆を企てているのか、それとも火のない所に毛利が煙を立てているのか。
房栄の寝返りこそ元就(もとなり)の過去の策の産物なのか、それとも……潔白の房栄を追い込み孤立させる元就の現在進行形の謀計なのか?
隆兼(たかかね)は悩んだ。弟と嫡男を呼び、密書を見せ、房栄の潔白を信じ、密書を破り捨てて、弘中家より外には漏れぬようにすべきでないかと言うと、民部丞(みんぶのじょう)は、
「某(それがし)も江良(えら)殿の無実を信じたい……。されど、兄上の申す通りにすると……万に一つ、万に一つだぞ、江良殿に叛心(はんしん)があった場合、我らは取り返しのつかぬ過ちを犯す形になる。慶安(けいあん)が見た密書と、楽阿弥(らくあみ)が得た密書、これで二通目なのだぞ」