古典個展

大阪大名誉教授 加地伸行 ロシアを易占してみると

加地伸行氏(森本幸一撮影)
加地伸行氏(森本幸一撮影)

この2月下旬以来、ロシアのウクライナ侵攻が続いている。

刻々、その情勢をマスコミが伝え、かつ論評している。

その根拠が正しいのかどうかは別として、少なくとも武力を使った侵攻にはまちがいない。

しかし、当事国の両者の歴史がどういうものであったのかについて、老生、ほとんど無知であるため、諸意見をただ読了するだけに終わっている。

残念である。そこで悔し紛れに今回の戦争を起こしたロシアに対して、易占(えきせん)を行ってみた。いわゆる易占(えきうらな)い。

なんでまた易、とお思いなさる読者も多いことと思う。しかし、少しも不思議ではないのである。

というのは、老生は中国思想の専門研究者。その方面において必須学習文献の一つが『易』なのだからである。

すなわち、中国思想を専攻した者は、『易』という文献を扱うのは当たり前、いや扱えなければ、いわゆるモグリということになる。

さて、作法通りに易占をしたところ、なんとなんと、<訟(しょう)>という結果(訟という卦(か))が出たのである。

ロシアの侵攻に対して訟、すなわち「争い。訴訟」というまさにそのものズバリ。

では、この卦は、何を示しているのであろうか。

訟は●という形。全体を上下の2つに分けて、上は■、下は★。この卦は行動を起こしたロシアに対して、次のようなことを予言している。すなわち上の■は陽(◎で示す)が3つもあり、気が強すぎる。これは、強引に争いの決着をつけようとすることを示している。

しかし、下の★は「つのるうれい(憂)」の意味とされる。

すると、剛(ごう)(■は剛健)が険(けん)(★は険(けわ)しいもの)に乗っているという卦。それは強引に訴訟して、ことをなしとげようとすると凶となる意味。それを『易』はこう表現している。「大川(たいせん)を渉(わた)るに利あらず」と。

老生のこの易断、「当たるも八卦(はっけ)、当たらぬも八卦」といえばそれまでではあるが、ウクライナ軍の善戦、世界諸国のウクライナ支援の状況を前にするとき、ウクライナが最終勝利を得ることであろうと、判ずる。

そうした易断とは別に、ロシアのプーチン大統領の印象は、底知れぬほど暗い。

なぜか。世界史の指導者において何人もそうであった暗さに共通するものだ。すなわち、満足を知らぬ顔つきである。

スターリン然(しか)り、ヒトラー然り、毛沢東然り…彼らは権力を絶対に手放そうとはしなかった。人間は動物の一種であり、必ず死があるという絶対的真実が分かっていないからである。それは、人間であるのに人間以上の者になろうとする傲慢が生み出す悲劇である。

そうした傲慢を窘(たしな)める古典のことばは無数にある。

『孝経』天子章に曰(いわ)く、親を敬う者は、敢(あえ)て人を慢(あなどら)ず、と。

『礼記(らいき)』曲礼(きょくらい)下(げ)に曰く、凡(およ)そ〔一般に、人に〕視(まみ)ゆるに〔その視線が相手の顔より〕上(あが)れば、即(すなわ)ち、敖(おご)る、と。(かじ のぶゆき)


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