汚染された血液製剤を投与され、C型肝炎ウイルスに感染した薬害被害者の救済が進んでいない。「一律救済」をうたった特別措置法が平成20年に成立したが、これまでに救済に至ったのは3割弱にとどまるとみられる。投与が判明した人への告知も道半ばで、関係者は「薬害に遭ったことを知らずに苦しんでいる被害者が数多くいる」として来年1月に迫った特措法の期限延長を訴えている。(村嶋和樹)
「特措法の成立から14年たったが、いまだに全面解決に至っていない」
4月6日、東京・永田町の衆院第1議員会館で開かれた薬害肝炎全国原告団・弁護団の緊急集会。全国原告団の浅倉美津子代表(71)は語気を強めた。
C型肝炎は感染すると7割程度が治らずに慢性化し、ほとんど自覚症状がないまま30年ほどかけて肝硬変、肝がんに進行する。
特措法では、被害者や遺族が国を相手取った訴訟を起こし、血液製剤の投与と感染の因果関係が認定されれば、国と和解した上で給付金を受け取れると規定。慢性C型肝炎が進行し死亡または肝硬変・肝がんになった場合は4千万円▽慢性肝炎患者は2千万円▽未発症の感染者は1200万円-が支払われる。請求期限は5年間。これまで2度、期限が延長されている。
ただ、「時間の壁」が救済の妨げになっている。
フィブリノゲンなどの血液製剤は昭和39年に承認されて以降、63年ごろまで多くの医療機関で大量出血時の止血などに使用された。厚生労働省は、血液製剤が納入された医療機関にカルテなどの確認作業を求めているが、カルテが見つかっても所在不明などで連絡がつかない人も多い。厚労省や弁護団によると、昨年7月時点で血液製剤の投与が判明した2万4832人のうち、投与の未告知は9696人に上る。
保管期限を過ぎてカルテが廃棄されていたり投与当時を知る医療関係者が高齢などを理由に法廷での証言を拒んだりするケースも。1万人以上と推計される感染者のうち、被害が認定されたのは2482人(今年3月末現在)に過ぎない。
集会には、与野党の国会議員約10人も出席。原告団は、来年1月に迫った特措法の期限を再び延長するよう要望した。出席した自民党の田村憲久前厚労相は「医療機関によるカルテの調査は十分になされておらず、新たに感染が分かった方は請求期限に間に合わない。まずは期限延長をしっかり(国会で)通していきたい」と述べた。
■劇症肝炎も対象に 患者遺族「法の矛盾是正を」
薬害C型肝炎をめぐっては、特措法の枠外に置かれてきた劇症肝炎に対する救済を求める声も上がっている。特措法は給付金の対象について慢性肝炎患者を前提としており、急激に症状が悪化し亡くなった劇症肝炎患者は「未発症の感染者」と同等の扱いを受けているためだ。
「法の不備のせいで、妻の死が軽く扱われている」。6日の集会では、妻を劇症肝炎で昭和62年に亡くした70代男性がビデオメッセージを寄せた。
札幌市内の病院で次女を出産した妻は止血剤として血液製剤を投与され、退院の約1週間後に体調が急変し大学病院に入院。医師から「あと1~2カ月」と余命宣告された。症状は急激に悪化し、自力でトイレにもいけなくなった。
妻は意識がもうろうとする中、何度も次女の名前を口にし「会いたい」と繰り返した。男性が病院に次女を連れてきた際には笑顔を見せたが、抱っこするだけの力もなく、38歳の若さでこの世を去った。
両親の協力も得て懸命に子育てしたが、娘2人は成人した今も、妻を話題にすることは避けている。「普通の家庭のように愛情を注いであげられなかった」。男性は無念さを口にした。
集団予防接種で感染が広がったB型肝炎患者の救済特措法(平成24年施行)では、慢性肝炎と劇症肝炎を区別せず死亡給付金の対象としている。一方、薬害C型肝炎は、特措法の成立時に劇症肝炎による死亡患者の存在が把握されておらず、劇症患者の救済を想定していなかった。
原告団によると、この男性を含めて少なくとも2人の劇症肝炎患者遺族が、慢性肝炎による死亡と同等の給付金支給を求め、裁判を続けている。
昭和61年に子宮摘出手術で血液製剤を投与され、約1カ月半後に劇症肝炎で亡くなった女性=当時(65)=の遺族は「C型だけ区別されるのは不合理。法の矛盾の是正をお願いしたい」と語った。
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薬害C型肝炎 平成6年以前に出産や手術の際に汚染されたフィブリノゲンなどの血液製剤を投与された人々がC型肝炎ウイルスに感染、14年以降に国や製薬会社の責任を問う集団訴訟が相次いだ。和解協議が続いていた19年10月、厚生労働省が感染者の特定につながるリストを放置していたことが発覚。20年1月、国の責任を認めて感染者に給付金を支給する薬害肝炎救済特別措置法が議員立法で成立した。