原油高騰で高まるEVの需要は、「最悪のタイミング」でやってきた

ウクライナ侵攻がもたらす混乱

ロシアによるウクライナ侵攻は、自動車関連のサプライチェーンにほかにも混乱を引き起こしている。ロシアはニッケルの主要生産国でもある。ニッケルはEVのバッテリーに欠かせない原材料で、各メーカーが1回の充電で走行できる距離の長い高性能車の開発に取り組むなか、その重要性はさらに増している。

ロシアからのニッケルの輸入は厳密には制裁で禁じられてはいないが、侵攻以降のニッケルの価格は世界的に高騰している。背景には、ロシア企業と取引を続ければ自社の評価が下がる可能性をメーカー側が懸念している側面があるのではないかと、国務省高官の経験があり、コロンビア大学で制裁措置について教えるエディー・フィッシュマンは言う。「連鎖的な影響が起きても不思議ではありません」

さらに米国の場合、EVの普及促進のための資金投入をこの先も進めるのか、進めるとすればどのようにするのかを巡る国レベルの議論が、業界全体の先行きを不透明にしている。

21年に可決された「インフラ法案」とともに議論された「Build Back Better(よりよい再建)」法案は、実現すれば最高12,500ドル(約150万円)の税控除が適用され、高額なEVの新規購入へのハードルがかなり下がると見込まれる。だが、同法案は上院で合意に至らないまま止まっており、今後の見通しには疑問符がつく。

EV化の理想と現実

EVを取り巻く危機は最悪のタイミングでやってきた。しかし、たとえ米国の生産ラインがEVを大量に世に送り出せたとしても、人々がすぐに購入する状態にはなかっただろうと、環境シンクタンクのブレークスルー研究所で気候・エネルギー担当ディレクターを務めるジーク・ハウスファザーは指摘する。

米国人は一般的に、15年から20年は同じクルマに乗る。「もし魔法の杖を使って、今日からガソリン車の購入を一切禁じたとしても、国内を走る自動車がすべてEVに置き換わるには15年ほどかかるでしょうね」

本来なら、EV化の動きは何十年か前から始めている状況が理想だった。市場が順応するには時間がかかるからだ。しかし現実世界をみると、米国のバイデン政権が掲げる目標は、30年の新車販売台数の4割をEVとするというものである。

いくつもの危機が同時に起きている現状を好転させるには遅きに失した感のある目標だが、それでも市場を動かすきっかけにはなる。「いまのさまざまなものの価格が示しているのは、市場は急には方向転換できないということだと思います。経済学者はよくモデルでそれが可能であるかのように示しますが、実際そうはいきません」と環境経済学者のポールは言う。「現実はもっとはるかに複雑なのです」

(WIRED US/Translation by Noriko Ishigaki/Edit by Daisuke Takimoto)

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