支援、死と隣り合わせ ウクライナ派遣の日本人医師

ウクライナを出国し、ポーランドでオンライン取材に応じる門馬秀介医師=4日
ウクライナを出国し、ポーランドでオンライン取材に応じる門馬秀介医師=4日

ロシア軍がウクライナ東部マリウポリ制圧に向けて攻勢を強める中、戦地に取り残された民間人への人道支援が急務となっている。医療機関が爆撃の標的とされ、医療物資の供給もままならない。3月下旬から約2週間、現地に派遣された日本人医師が産経新聞のオンライン取材に応じ、死と隣り合わせの過酷な日常を打ち明けた。(本江希望)

「1週間ずっと地下にいたんだ。靴を脱ぐこともできなかった」

ロシア軍の包囲攻撃が続くマリウポリから北西に約300キロ離れたドニプロに逃れた男性は、避難所の診療所で足の痛みを訴えた。治療したのは国際医療援助団体「国境なき医師団」(MSF)の救命救急医、門馬(もんま)秀介さん(48)。ロシアの侵攻後、日本からウクライナに派遣された最初の医師だ。

東部の要衝であるドニプロにはマリウポリのほか、北東部ハリコフなどから避難民が押し寄せている。ドニプロも空港が破壊されるなど散発的に攻撃にさらされているが、医療体制は維持され、MSFが支援活動を行っている。

3月23日に現地入りした門馬さんは、約30人のチームとともに活動。地元医師らに戦線が拡大して多数の負傷者が出た場合に備え、緊急度や重症度に応じて治療の優先順位を決める「トリアージ」の方法などを指導したほか、避難所で避難民の診療を行った。

避難民らは戦争の恐怖に向き合いながらも気丈に振る舞っていた。「北方領土は大丈夫か」。祖国の危機を差し置いて、日露関係を気遣う人も多かった。そんな中で精神的に追い詰められ、突然泣いてしまう人や黙り込む人、食事を取れなくなる人もいた。

■病院への攻撃続く

一方、激戦地のマリウポリでは産科病院や住民が避難していた劇場が空爆を受け、民間人2万人以上が犠牲になったとされる。いまだに約10万人が取り残されているともいわれる。

戦闘が本格化して以降、MSFを含め、ウクライナ国内で人道支援を行う国際機関や非政府組織(NGO)はマリウポリには入ることができていないとみられる。爆撃の中、退避したMSFの現地スタッフからは「水も薬もない状態だった」と伝えられた。

ロシア軍の攻撃は東部や南部で激しさを増し、南部ミコライフでは今月初旬、2日間で3つの病院が爆撃されるなどの被害が出た。また、支援活動中のMSFのスタッフが攻撃を目撃したことも報告された。

■「切れ目ない支援を」

2日にドニプロを離れた門馬さんは「日常のすぐそばに戦争があった。医療物資を提供するにも死と隣り合わせ。輸送中に爆破される可能性もあり、簡単なことではない」と激戦地での支援の難しさを振り返る。

それでも必要とされるなら再びウクライナで支援活動を行いたいと力強く語り、「状況に応じた切れ目のない支援をしていかなければならない」と訴えた。

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