昭和45年10月、元自衛官でつくる沖縄隊友会会長の石嶺邦夫は、約20人の隊友とともに那覇空港で一人の男の到着を待っていた。やがて飛行機が着陸し、タラップから姿をみせたのは防衛庁長官、中曽根康弘だ。中曽根は、出迎えの琉球政府高官や米軍将校らの前を素通りし、末席に並ぶ石嶺らの前に来ると、一人一人の手をがっしりと握った。空港の外では、自衛隊に反対するデモ隊のシュプレヒコールが響いていた。
退職余儀なく
「長官ならではのパフォーマンスだろう。そうと分かっていても、とても勇気づけられた」
88歳になった石嶺が、遠い目で語る。