ビブリオエッセー

値上げが気になるこの春に 「三千円の使いかた」原田ひ香(中公文庫)

この春はとにかくモノの値段が気になる。原油高に円安…もう値上げのニュースばかりだ。

そんな今、原田さんの『三千円の使いかた』というタイトルに、そんな少ない金額じゃ何にもできやしないとかすかな反発心が湧き、なかなか読む気にはなれないでいたが、気がつくと平積みになっていたこの小説を手にしていた。御厨家の祖母、母、そして20代の姉妹三世代の、お金をめぐる6つの短編集である。

「人は三千円の使い方で人生が決まるよ」。表題作「三千円の使いかた」は祖母、琴子のこんな言葉で始まる。祖母や母、姉の貯金が気になる24歳の次女、美帆が主人公だ。動物好きの私は美帆が保護犬と出会う場面が気になった。ペットと暮らせるマンションを手に入れるには…。美帆は節約セミナーに足を運ぶ。

「七十三歳のハローワーク」は琴子の物語。夫に先立たれ、貯金は一千万円あるがまだまだ不安なのだ。琴子は職を求めてハローワークを訪れる。私も通った場所なので共感を覚えた。いつ来ても人であふれ返っていた。ご近所の手前か、スーツ姿で求人票に書き込んでいた男性や乳飲み子を抱えて検索画面とにらめっこする女性…。「ここに来るのは今日で最後にしたいです」。高齢の男性が職員に叫んでいた言葉が今も耳に残っている。

このあと「目指せ! 貯金一千万!」「費用対効果」と、どれも身近な話題で自分に引きつけて読める。お金に関する役立つ情報もあり、自己啓発本の要素も含んでいるが節約や貯蓄のノウハウ本ではないのでくれぐれも。

人生は費用対効果ではないと言う琴子の「節約って、生きていることを受け入れた上ですることよ」という一言がひどく哲学的に響いた。本当にお金って何なんだろう。

横浜市南区 ゆかり(42)

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