韓国に「落郷(ナッキャン)」という言葉がある。日本語では「都落ち」だろうか。都で志を果たせずやむなく故郷に帰ることをいう。昔から何事につけ中央集権的な韓国ではよく使われてきた。政争に敗れた政治家のほか、サラリーマンでも地方転勤を命じられるとそういって自嘲する。
逆に成功して「故郷に錦を飾る」ことは「錦衣還郷(クミファニャン)」という。来月、退任後に故郷の釜山(プサン)(慶尚南道(キョンサンナムド))近郊に居を構えることになっている文在寅(ムン・ジェイン)大統領はとりあえずこれである。これに対し先ごろ恩赦で約5年間の獄中生活から解放され、ソウルを離れて故郷の大邱(テグ)(慶尚北道(キョンサンプクト))に移り住んだ朴槿恵(パク・クネ)前大統領は「落郷」のイメージである。
釜山と大邱は比較的近い。勝者と敗者が同じ方角で過ぎた過去をかみしめるという図式である。ただ文氏の場合、自ら秘書室長として仕えた盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領(在任2003~08年)が退任後、夫人の金銭疑惑で検察に呼び出された後、自殺したという悪夢がある。こうした悪夢再現を避けるため、今のうちに検察を手なずけておこうと〝検察改革〟に必死だ。「錦衣還郷」でもしばらくは落ち着かないだろう。