罠(わな) 十一
隆助らがベザイ船で岩国を出た直後から、病の暴威が――みちに襲いかかった。みちは、凄(すさ)まじい痛みに泣きじゃくり、獣に近い叫びを上げ、その痙攣(けいれん)は今までと段違いに激しく……仰向(あおむ)けに寝かされた彼女の背はしばしば逆らい難い力で大きく反り、弓形(ゆみなり)にまがってしまった。
隆兼(たかかね)は病名を知る由もないが、これは破傷風の症状である。
山里の乙女は、あまりの痛みに幾度も気をうしなった。
凶暴な発作で背骨を折るのではと危ぶみ、みちの身体を押さえ込む梅や、こんの気力体力も一気に削り取られている。