野球がぜんぶ教えてくれた 田尾安志

苦労の先に花開く

開幕戦で勝利し、笑顔をみせるソフトバンクの藤本博史監督=3月25日、ペイペイドーム(安部光翁撮影)
開幕戦で勝利し、笑顔をみせるソフトバンクの藤本博史監督=3月25日、ペイペイドーム(安部光翁撮影)

今季のプロ野球で絶好のスタートを切ったのがソフトバンクだ。就任1年目の藤本博史監督は、打撃コーチのほか2軍や3軍の監督を歴任。ホークスの隅から隅まで知る人間として昨季4位に終わったチームの立て直しを任され、開幕8連勝を飾るなど、まずは順調に滑り出した。

ソフトバンクの監督は王貞治氏、秋山幸二氏、工藤公康氏ら選手として華やかな道を歩んできた人が続いていたが、ファンへのアピール度で控えめな藤本監督を球団が選んだところに、勝利への熱意を感じる。

本人もまさか自分が1軍の監督をするとは思っていなかったかもしれない。現役時代は決してスター扱いされてこなかった分、変に格好つけるところもない。1軍に上がれない選手たちを数多く見てきた分、いろんな立場の人を理解して指導できるのが強みだろう。

開幕前、僕は三塁のレギュラーを長年張ってきた松田宣浩を代打の切り札の役割に置き、将来の中軸打者として期待される22歳の砂川リチャードを三塁で使うとみていた。しかし、蓋を開ければ三塁で起用されているのは新外国人のガルビス。育成だけに気を取られず、勝つための最善策を徹底している。

藤本監督にとってリチャードは3軍の監督をしていた2019年から指導してきた教え子だ。当時からスラッガーとしての能力を認めながらも「のんびりしていて、がつがつしているところがないため伸び悩んでいる」ともどかしげに評していたのを思い出す。1軍の指揮権を持った今、安易にポジションを与えず、試合で使える実力に達するまで吟味するということではないだろうか。

僕が中日に入ったばかりの若い頃は、外野の定位置を奪うのに必死だった。自分より力が上の人が3人いれば試合に出られない。一時的に使ってもらうだけではなく、長年にわたってレギュラーとして試合に出る選手になるためには、自分をレベルアップさせるしかない。その部分の意識づけを藤本監督はリチャードに促しているのだと思う。

細かいことまで気にしなくても活躍できる人がスーパースター。逆に、下積み時代も経験している人は苦労の先に花開くこともあるのを知っている。世代交代の過渡期にあるチームで、藤本監督ならではの手腕に今後も期待したい。(野球評論家)

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