朝晴れエッセー

香り・4月12日

夜半、実家の留守番を頼まれていた私はお茶を飲むために台所に立った。新しい茶葉と沸かしたてのお湯を急須に入れ、湯飲みに注いだ。

お茶を口に含んだ瞬間、違和感を覚えた。口から鼻に抜けるお茶の香りを楽しもうとしていたのに、オーデコロンのような香りがひろがったのだ。

思わず湯飲みをしげしげと眺めてみたがもちろん目に見えるはずもなく、飲み口を少しずらしてもう一度飲んでみた。

やはり同じだ。それでも何となく捨ててはいけない気がして最後まで飲み干した。

翌日夜7時半、読経の流れる中、父の通夜が始まった。享年92歳、父との生前の思い出がよみがえる。

おしゃれで毎朝洗面所を占領していた。髪形を整え、アイロンのかかったワイシャツを着てピカピカに磨かれた靴を履いて出勤する。どんなに酔って帰っても不思議とスーツだけはキチンとハンガーにかける。

一度たりとも身だしなみを整えずに出かけたことはなかった。

亡くなる直前お見舞いに行ったとき、病室に置いてあったオーデコロンの瓶を見かけたときは驚いた。そのときは父らしい、と思っただけだった。父が若いときから愛用していたオーデコロンは一度も変わることなく、父といえばこの香りだった。そのとき、突然昨晩のお茶を思い出した。

そうか、そうだったのか。あれは口下手だった父から私への別れの挨拶だったんだ、と。

すてきな挨拶だったよ、ありがとうお父さん。


上田千賀子(61) 滋賀県栗東市

会員限定記事会員サービス詳細