日本を代表する建築家、黒川紀章さんの代表作として知られる集合住宅「中銀カプセルタワービル」(東京都中央区銀座)の解体工事が12日、始まった。竣工(しゅんこう)から半世紀が経過し、人々を魅了した集合住宅は老朽化を理由に姿を消す。一方、美術館への寄贈や宿泊施設への転用といった再利用計画が進んでいて、時代を先取りした偉大な建築家の思想は、形を変えて後世に残される見込みだ。(永井大輔)
「いよいよ解体の日が来た。居住を含め12年間かかわってきただけに、寂しさを感じる」
元所有者らでつくる「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」の前田達之代表(55)はビルを見ながらこう目を細めた。この日は解体開始の情報を聞きつけた建築ファンが次々と訪れ、半世紀にわたり首都の中心部に鎮座した独特なシルエットを写真に収め、瞳に焼き付けていた。
前田さんがかつて居住していた一室は既に内装が外されているというが、外見上の変化はまだ見られない。解体工事は、周辺に足場を組み、防音シートなどで覆うことから始まり、実際にカプセルを外したり、壊したりするのは6月ごろになる見通しという。
都市の新陳代謝
四角いカプセル計140個が積み重なり独特の造形を見せる集合住宅は、黒川さんらが提唱した建築理論「メタボリズム」を具現化しようとしたものだ。新陳代謝を意味する「メタボリズム」。当初の構想では、時代や社会の流れとともに都市が新陳代謝するように、25年ごとにカプセルを取り換える予定だったとされる。
各カプセルには約10平方メートルの小さな部屋があり、テレビやユニットバス、オーディオデッキなどが備え付けられる。特徴的な丸窓からは首都高やビル群を眺めることができる。
こうした特殊な形状は、修繕費などのコストが高くつく。前田さんによると、1つのカプセルを取り外して交換するのに1千万円近い費用がかかる計算だった。結果としてカプセルの交換は一度も行われなかった。昨年3月にはオーナーで作る管理組合の臨時総会が開かれ、老朽化による取り壊しと敷地売却を決定。今年3月に最後の住人の退去が完了した。