ブチャの殺害は「人道法違反」 浅田正彦同志社大教授

殺害された友人の墓の前で泣く男性=6日、ウクライナ・ブチャ(ロイター=共同)
殺害された友人の墓の前で泣く男性=6日、ウクライナ・ブチャ(ロイター=共同)

ロシア軍が侵攻するウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊のブチャで、民間人の遺体が多数見つかった。ロシア兵は残虐な行為を行ったとされる。国連の国際法委員会委員に内定している同志社大法学部の浅田正彦教授(国際法)は今回の事件について「人道に対する犯罪」と指摘した。一問一答は以下の通り。(聞き手 橘川玲奈)

浅田正彦氏
浅田正彦氏

--ブチャで多数の市民が殺害されたことをどう見るか

「ロシア軍は、これまでも民間人や学校、病院、原発などを攻撃し、国際法違反とみられる行為を多数行っている。ただ、近くの軍事目標を狙い、誤爆だったと主張する可能性はゼロではない。国際法上、そのような巻き添えは一定程度許容される。ただ、ブチャでの行為では、そのような言い逃れはできない。これまでのものとは質的に異なり、明らかな国際法、戦争法、人道法違反といえるだろう」

--ジェノサイド(集団殺害)はどう定義されているか

「国際刑事裁判所(ICC)の規程が一般的だ。ジェノサイドは『国民的、民族的、人種的または宗教的な集団の全部または一部に対し、その集団自体を破壊する意図をもって行う殺害やその他の行為』と定義されている」

「集団の性格が4つに限定されていることなど、ジェノサイドの認定には厳しいものがある。『全部または一部』の一部とはどの程度なのかという問題や、『意図をもって』という主観的な要素もある。『破壊する』という言葉は日本語ではわかりづらいが、英語でいえばdestroy。殲滅(せんめつ)する、といったニュアンスがある」

「過去にジェノサイドと認定された例は(1995年の)旧ユーゴスラビアのボスニアで7千人以上が殺害されたといわれるスレブレニツァの虐殺事件が挙げられる。旧ユーゴでは各地で民族浄化が行われ、他にも悲惨な虐殺が行われたが、旧ユーゴ国際刑事裁判所でジェノサイドと認められたのはこの1件だけ。それだけ認定は難しい」

--ブチャで民間人が殺害されたのは、ジェノサイドといえるか

「これがスレブレニツァと比較し、4つの集団の相当な部分の破壊といえるか、破壊の意図が立証できるかなど、ジェノサイドと認定するハードルは高いが、ジェノサイドの定義を緩和しようとする動きがあるのも事実。いずれにせよ、ブチャの事態が『人道に対する犯罪』に該当するのは間違いない」

--人道に対する犯罪とは

「これもICCの処罰対象で『文民たる住民に対する攻撃であり、非人道的な行為で、広範または組織的なもの』と定義され、殺人や拷問、迫害、奴隷化などが挙げられる。『広範』『組織的』というと規模が大きいということになるが、一般的にはジェノサイドほどでなくてもよく、集団を破壊する意図も必要ない。国際司法裁判所(ICJ)が『国対国』の紛争を扱うのに対し、ICCは人道に対する犯罪などを管轄し、日本の刑事裁判と同じように人に刑罰を科す」

--プーチン露大統領を罪に問えるのか

「プーチン氏は『上官責任』を負うとして、罪に問えるだろう。プーチン氏がロシア兵に市民の殺害を命じていた場合はもちろん、命じていなくても問われる場合がある。それは犯罪行為を知りながら、自ら可能な防止措置を取らなかった場合だ。プーチン氏が事実を知っていれば、止めることはできたはずだ。ただ、側近が真実を報告していなかったという報道もあり、SNSをやらないプーチン氏がどこまで知っていたかは議論の余地があるかもしれない」

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