障害者の就労支援にVR活用 埼玉の施設

仮想現実(VR)対応ゴーグルを装着して、職場でのコミュニケーションの訓練に臨む通所者=埼玉県鴻巣市(深津響撮影)
仮想現実(VR)対応ゴーグルを装着して、職場でのコミュニケーションの訓練に臨む通所者=埼玉県鴻巣市(深津響撮影)

就労を目指す障害者のための対人コミュニケーションなどの訓練に、仮想現実(VR)を活用する取り組みを埼玉県鴻巣市の施設が始めた。新型コロナウイルスの感染拡大が長期化し、対面での訓練を従来のように頻繁に行うことが難しくなったためだ。施設の担当者は、通所者のコミュニケーション能力が高まってきていると手応えを語る。

VRによる訓練を導入したのは、精神障害者5人、知的障害者1人が通う就労移行支援施設「夢工房翔裕園」。

施設ではこれまで、職員との面接や日常的な雑談を通じ、適切な言葉の選び方や相手の意図をどうくみ取るかを訓練してきた。しかし、感染拡大に伴って職員と通所者の雑談の機会が減った上、企業による実習や職場見学会も少なくなり、就労支援に影響が出かねない状況に陥った。

施設長の百合川祐司さん(50)は「失われたコミュニケーションの機会を、より安全に体験することができればと考えた」とVRに着目した理由を説明する。

昨年10月から導入したのは、ジョリーグッド(東京都)のソフトウエア「ジョリーグッドプラス」で、職場で分からないことがあったときの質問の仕方など約300パターンの訓練に臨むことができる。選んだ選択肢によって仮想現実内の状況が変化していくため、実際のコミュニケーションに近い体験ができるほか、視線がどこを向いていたかなどの分析も可能だ。

ソフトウエアによる訓練は2週間に1回のペースで行っている。就労支援員の男性は「通所者の言葉の選び方や言い方に変化が生まれている」。百合川さんも「経験を積み重ねることで社会で過ごしやすくなる」と期待する。

知的障害を持つ男性(27)は「自分で想像していたものとは違う答えが来ることもあり、会話の勉強になる」と話した。(深津響)

会員限定記事会員サービス詳細