陳銘俊の一筆両断

日本、世界の民主主義国家へ呼び掛けたい

陳銘俊氏
陳銘俊氏

新聞やテレビでは、ロシアのウクライナ侵攻が連日報道されています。

「軍事施設を対象にしている」と言いながら、一般の住宅、病院、小学校にまでミサイル攻撃を繰り返すロシアの非人道的なやり方に世界中が心を痛め、憤っています。台湾はウクライナと同じように長きにわたって、やっかいな「隣人」の脅威を受けてきました。従って、ウクライナの苦難にはわがことのように深い同情を抱いています。台湾にとって最大の脅威は中国です。中国とロシアはともに専制大国ですが、中国のGDP(国内総生産)はロシアの10倍、軍事費は6倍です。

民主主義でない大国は往々にして侵略性を持ちます。そのとき、直接被害を受けるのは、歴史的関係を持つ国、あるいは歴史的な恨みのある国ですが、往々にしてそこだけにとどまらないのが実情です。ナチスもオーストリアにとどまらず、軍国主義時代の日本も満州にとどまりませんでした。同じように中国も台湾あるいは日本にとどまらず、覇権を拡大し続けるものと思われます。

台湾は民主主義圏の最前線における戦略的要衝にあり、自由、民主、人権、そしてサイバーセキュリティーを守る最前線にあります。中国からの飛行機・軍艦の侵入は毎日のごとく、社会への浸透も深刻です。また、台湾は連続9年間、世界で一番多くハッカーとフェイクニュースの攻撃を受けました。台湾の政府機関には毎日500万回の攻撃があります。そのほとんどが中国からのものです。昨年5月号のエコノミスト誌も台湾が地球上で最も危険なところであると報道しました。天安門事件からも分かる通り、自国民に対しても弾圧をためらわない中国はロシアよりももっと危険な存在と言っていいと思います。

現在のアジアの情勢と、かつて中国という国が形成された時期の状況はとても似ています。中国の戦国時代、中国には7つの国がありました。中でも秦は最も大きく専制覇権国家でした。ほかの6つの国はもともと一致団結して対抗したかったものの、それぞれの思惑もあり、秦が提唱した親善友好と利益に誘惑され、おのおのが各個撃破で分断され、ひとつずつ滅びてしまいました。歴史は繰り返すものです。

中国の覇権と拡張を抑えられるかどうか。キーポイントは民主主義陣営がそれぞれの思惑を置き、一致団結できるかどうかにあります。ロシアの拡張には北大西洋条約機構(NATO)の制約がありますが、中国の脅威に対する安全保障のメカニズムがアジアには欠如しています。中国経済のマーケットの大きさに幻惑され、分断されることを心配しています。

ウクライナのゼレンスキー大統領はドイツ議会で演説し、「ロシアとドイツの間の天然ガスパイプラインがロシアの武器であることを再三にわたり警告したにもかかわらず、ドイツは経済を優先させてしまったのではないか」と述べました。中国の巨大市場はロシアの天然ガスパイプラインと同じように世界中の企業の目と心を奪っているのではないかと思います。

台湾と中国との衝突の最も肝要なところは主権に対する認識の違いです。中華人民共和国は「古くから台湾は中国の一部であった」と主張していますが、著名な言語学者であるハワイ大学のロバート・ブルスト教授と、オーストラリアの考古学者であるピーター・ベルウッド教授の研究によると、台湾は南太平洋民族の最初の起源地です。台湾は言語文化において太平洋諸国と密接な関係を持つだけではなく、台湾の歴史においてオランダ、スペイン、鄭成功王朝、満州族の統治した清朝、日本時代を経て権威主義の時期も経験し、1996年に初めて総統直接選挙により総統が選ばれて新しい民主主義を確立しました。

他の国々が承認しようがしまいが、台湾は活気があふれ、独立、自由、法律順守、経済繁栄、創意あふれるイノベーションがあります。民選の総統、議会、領土、人民、政府、軍隊、法律、主権、貨幣、パスポートなどを持ち、言語の使い方も文字の書き方も中国とは違います。また、何より重要なことは台湾に対するアイデンティティーであり、自由、民主、人権への尊重です。中華人民共和国は一日たりとも台湾を統治したことはなく、蔡英文総統も、何回にもわたり台湾と中国はお互いに所属関係がないことを表明しています。

中国がいかに主張しようと、威嚇しようと、台湾がかつて中華人民共和国に属したことがないことは明白な事実です。これに関して一つの童話を思い出します。王様の新しい洋服の話です。王様は明らかに裸であるのに、みんなに洋服がきれいだと褒(ほ)めてほしいのです。みんなは王様が怒るのを恐れ、裸であることを指摘できないという話です。現在の中国も同じではないでしょうか? 台湾は確かに非常にきれいです。しかし中国のモノではありません。中国は、着てもいない台湾という洋服を皆が認めるよう強く要求しているのです。

日本には「毛利家の三本の矢」の言い伝えがあります。中国にも同じような諺があります。一本の箸は簡単に折ることができるが一束になると折れにくくなるというものです。民主主義陣営が団結しさえすれば権威主義国家の脅迫を拒むことができるのです。すべての民主主義陣営は一致団結すべきです。分断されてはいけないのです。

歴史が繰り返し、われわれに警告しています。行き過ぎた宥和(ゆうわ)は絶対に平和をもたらすことはできないと。すべての民主主義陣営は団結しなければなりません。今回のロシアの侵攻に関しては、ウクライナ人民が示した決心が台湾を励ます結果になりました。「自分の領土、領海は自分で守らなければならない、台湾はアジアで最もレベルの高い自由、民主主義があることに誇りを持ち、ようやく勝ち取った自由主義、民主主義を守り貫かなければならない」と。

台湾の要求は多くありません。独立して存在している事実を認めてほしいのです。先人が血を流してようやく勝ち取った自由、民主の生活様式を続けたい。われわれは同じような価値観、理念を持つ民主主義国家と一緒に平和を守る努力をしていきたいと願っています。台湾は民主主義国家の信頼できるパートナーであり、皆さんの支持に値する、外交承認に値する友人であることを約束します。

【陳銘俊(ちん・めいしゅん)】 1964年3月、台湾東部、花蓮県生まれ。台北市の中国文化大韓国語学科を卒業後、台湾外交部入り。大阪外国語大(現大阪大)や慶応大への留学経験がある。カリフォルニア大学バークレー校、ハーバード大学客員研究員。許世楷・台湾駐日代表(当時)の補佐官や台北駐ボストン経済文化弁事処の副処長などを歴任し2018年7月から日本の内閣官房にあたる台湾総統府で機要室長を務めた。趣味は語学研究。台湾語、中国語、客家語、アミ族語、広東語、英語、日本語、韓国語、スペイン語、フランス語、インドネシア語、タイ語、ベトナム語、ヘブライ語などの比較研究に取り組む。

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