いきもの語り

トキの産卵第一号、今年は多摩で

トキの親鳥が営巣している様子=3月8日、日野市の多摩動物公園(東京動物園協会提供)
トキの親鳥が営巣している様子=3月8日、日野市の多摩動物公園(東京動物園協会提供)

雄と雌が交互に卵を温め、かいがいしく世話をする。むしろ、雄のほうが積極的。多摩動物公園(東京都日野市)のトキの社会は、人間以上に〝男女共同参画〟が進んでいるようだ。

同園では3月10日、18歳の雄と21歳の雌のペアが卵を産んだ。毎年、その年初の産卵はトキの飼育で有名な佐渡トキ保護センター(新潟県)が恒例だが、今年は同園が全国に先駆けて産卵を確認し、「第一号」の称号を手にした。

もっとも、来園者はこの光景を見ることができない。トキは国の特別天然記念物であり、環境省の計画により非公開で飼育している。そして何より、安全な孵化(ふか)のためにはストレスの軽減が欠かせない。

トキの飼育担当、石井淳子さんは「残念ながら展示はしていませんが、ホームページなどを通じてトキのニュースを発信していきます。多摩動物公園がトキの保全に貢献していることを多くの人に知ってほしい」と話す。

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トキは20世紀初頭には中国や日本などに幅広く分布していた。その後、肉や羽を目当てにした乱獲に加え、農薬や生息地の環境破壊などによりじわじわと減り、日本産は絶滅した。

平成11年から中国産トキの人工繁殖が始まり、今では毎年のように野生への放鳥が続いている。

現在、国内では多摩動物公園のほか、佐渡トキ保護センターや出雲市トキ分散飼育センターなど7施設で計182羽(2月16日現在)が飼育されている。

多摩動物公園は平成19年から、トキの保護増殖事業への協力を始めた。佐渡トキ保護センターから2ペアを預かって飼育を始め、現在は4~21歳の雌雄3羽ずつ計6羽がいる(3月14日現在)。いずれも非公開だ。

監視モニターで観察しているため、飼育担当ですら、産卵の瞬間ははっきりとは分からなかった。日没後、暗くなると撮影できないからだ。トキは夕方から日没後に産卵するケースが多く、今回は3月10日の夜と推定されている。

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早朝、明るくなったら起床。日中は食事などのほか、繁殖期である今の時期は巣材を巣に運ぶなど忙しく働き、夕方日没前には寝る。規則正しい生活を送るトキを、石井さんら飼育担当者は遠くから、温かく見守る。

トキは繁殖時期かそうでないかで、色も変わる。繁殖しない時期(8~1月)、トキの羽はとき色と呼ばれる独特の赤みがかったオレンジ色をしていた。それが繁殖期が近づくにつれてだんだんと黒に変わっていく。黒い分泌物を自分で体に塗り付けるためだ。

「トキの見た目や行動の変化から、1年の季節の移り変わりを感じられるんです」(石井さん)

普段は仲の良いペアでも、時々けんかをするなど人間臭い一面もある。来園者の目に直接触れない場所でも、石井さんたちは縁の下で「種の保存」に向けて力を尽くしている。(大森貴弘)

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