TOKYOまち・ひと物語

がん患者らに居場所を 「マギーズ東京」秋山正子さん

がん患者らの相談支援を続ける秋山正子センター長=東京都江東区の「マギーズ東京」(三宅陽子撮影)
がん患者らの相談支援を続ける秋山正子センター長=東京都江東区の「マギーズ東京」(三宅陽子撮影)

不安と隣り合わせにあるがん患者らが気軽に立ち寄り、相談のできる居場所として誕生した「マギーズ東京」(東京都江東区)。開設から昨年5周年を迎え、来場者はがん患者やその家族、友人ら3万人を超えた。センター長を務める看護師の秋山正子さん(71)は、対話を通じ、がんとともに生きる人らにエールを送り続けている。

広大な埋め立て地が広がる江東区豊洲の一角。大きな窓ガラスが印象的な2棟続きの平屋の建物がマギーズ東京だ。優しい光が差し込む室内は木材の香りに包まれ、温かな雰囲気に満ちている。

出迎えてくれるのは、看護師ら医療知識を持つ専門家たち。やって来る人たちの思いはさまざまだ。がんの告知を受けた人、再発を知った人、新たな治療薬を提示され、迷う人…。「モヤモヤした思いを抱えて家に帰れない、ここはそんな時、ふらりと立ち寄ってもらえる場所」。秋山さんはそう話す。

支援の在り方模索

患者を支える医療の道を志したのは16歳の頃。父が末期の胃がんで認知症も患っていたのを亡くなった後に知らされ、何もしてやれなかったことを悔いた。看護師として多忙だった39歳の頃には、今度は姉が末期の肝臓がんだと分かった。本人の希望に沿って在宅療養で看取った経験が、訪問看護に携わるきっかけとなった。

その後は、訪問看護ステーションを都内に立ち上げるなど精力的に活動。在宅患者の支援に奔走する中である課題に突き当たった。

必死の思いで治療を受けてきた患者が、ある時点で病院から「もうできる治療がない」「緩和ケア病棟を探して」と言われる。だがすぐ入れる施設は見つからず、慌てふためく間に、残された命を枯らしていた。

「ギリギリの中で治療を頑張ってきた人が在宅療養へとつながって間もなく、亡くなっていってしまう。最期までの時間があまりに慌ただしい。もっと前から自分はどう生きたいのか、じっくりと考えていける環境が必要ではないか」

支援の在り方を模索する中、英国のがん患者支援施設「マギーズセンター」を知った。がんの初期であっても末期であっても、そこに行けばじっくりと無料で話を聞いてもらえる。病院と自宅の中間にある患者の〝第3の居場所〟だった。

思いを吐き出して

施設は一定の建築要件に沿って建てられており、美しく温かな空間設計にも心を奪われた。

「同様の施設を日本にも作りたい」。平成23年にマギーズの準備室を意識した、よろず相談所「暮らしの保健室」を新宿区の団地内にオープン。28年10月、志を同じくする仲間とともに「マギーズ東京」の開設にこぎつけた。

現在は新型コロナウイルスの影響で予約が必要となっているが、通常は予約なしの来場が可能。訪れた人は施設でお茶を飲んだり外を眺めたりしながら思い思いの時を過ごし、ポツリポツリと胸の内を語りだす。

「誰かにまとまりのない思いを吐き出すことで、気持ちが整理され、何が気にかかっているのかが見えてくる。モヤモヤしていることの正体が分かれば、抱えた問題にどう対処していけばよいかが見えてくる。病気以外のことも考えられるようになる」

その人が本来持つ課題を「乗り越える力」、「生きる力」を取り戻すためのサポート。それこそが、施設の果たす大事な役割だと感じている。(三宅陽子)

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