6歳の照美は、人から親切にされてもうまく笑えない。両親は早くに別れ、父に引き取られた。
▼「ありがとう」と言えないのは、同情を拒み、自立を望んでいるからだ。〈たとえどんなにいいことにしろ、それを知るべき年齢よりも早くそれを知れば、それは悲劇の色しか帯びない〉(『化粧と口笛』川端康成)。この一節が哀調を帯びて響くのは、現代にも似たような境涯に悩み、苦しむ子供がいるからかもしれない。
▼家庭の事情で、親に代わり家事や幼いきょうだいの世話を担うヤングケアラーである。周りの大人に「偉いね」とほめられ、意気に感じた子供は親の役割に近づくため無理にでも頑張ろうとする。大人たちの賛美はしかし、子供の逃げ場を奪いかねない―。『ヤングでは終わらないヤングケアラー』(仲田海人、木村諭志編著)という一冊にそう教わった。