新聞に喝!

もっと知らせるべきロシアの論理 京都府立大教授・岡本隆司

6日、ウクライナの首都キーウ近郊のブチャに残る、破壊されたロシア軍の戦車(AP)
6日、ウクライナの首都キーウ近郊のブチャに残る、破壊されたロシア軍の戦車(AP)

去る2月24日に勃発したロシアのウクライナ侵攻は、停戦交渉が続くものの、なお収束の道筋が見えない。

日本の新聞メディアはこの攻撃を「侵攻」と表現し、「侵略」とみなす点で一致している。日本人の立場では、そのほかにありえないのは当然であり、当面の政策も現行の大枠を逸脱することは考えにくい。したがってそれに対する賛否の立場から局面の変化に応じて、新聞メディアで種々論評意見が出てくるのも、やはり当然である。

しかし刻々と移り変わる情勢の報道・論評は、やはりSNS・ウェブサイトに一日の長があるのを認めざるをえまい。新聞メディアが後追いしなぞっている観もある。

すでに1カ月以上、ロシア軍の苦戦は予想外だったものの、侵攻以前、国境周辺での演習の段階では、まさか戦争はありえない、と専門家の多くも考えていた。侵攻そのものがまさに予想外だったのである。専門家ですらそうなら、素人はなおさら、なぜ侵攻しなくてはならないのか、無知な筆者などは、いまだにそこがわからない。

報道によれば、プーチン大統領は侵攻について「この日」「この挙」しかなかったといっている。このあたりのギャップをどう考えればよいのか。

たとえば、筆者のよくわからないトピックに、ウクライナの「ネオナチ」勢力がある。これを事前に報じ、理解をうながした日本の新聞メディアは、どれだけあったのだろうか。プーチン氏の所説が正しいかどうかは、さしあたり問題ではない。なぜそう説き、行動に移したのか、が重要なのである。

この種の西側の理解を超えたロシアの論理と行動をもっとつきつめておくべきではないか。そのためには、ロシアの有する世界観、そこにもとづく根源的な不安や問題意識を、あらかじめ理解しておかねばならない。

わが国はいうまでもなく、ロシアと隣りあうばかりか、領土問題をかかえ、その軍事的脅威を受けつづけている。しかも理解を超えた大国・隣国はロシアだけではないから、今回のウクライナ侵攻を人ごとと考える向きはほとんどいまい。

それなら侵攻の前後を貫くロシアの主張・挙動を知り、備えに資することが、何より重要であろう。「侵攻」「蛮行」「虐殺」と目前・現状を批判悲嘆してもはじまらない。新聞メディアには事実の報道、輿論(よろん)の喚起・形成に劣らぬ啓蒙(けいもう)の任務もある。SNSなどとは異なる役割を十分に果たしてほしい。

【プロフィル】岡本隆司

おかもと・たかし 昭和40年、京都市生まれ。京都大大学院文学研究科博士課程満期退学。博士(文学)。専攻は東洋史・近代アジア史。著書に「『中国』の形成」など。

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