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言葉も魅力的な画家たち

「この春は最高に美しい。(略)まさに絵にしているところだ。やる気満々だよ。春はまだ終わらない。リンゴの花はまだ咲いていないが、もうすぐ咲くはずだ」

現代を代表する画家、デイヴィッド・ホックニー(84)は近年、フランス・ノルマンディー地方の田園地帯に居を構えた。自然の移ろいに心躍らせながら旺盛に描いている。

英国に生まれ、ロンドンや米西海岸など都会を拠点に活動してきた巨匠が、80代で初めて選んだ田園暮らし。新型コロナウイルス流行によるロックダウンと重なり、孤立を余儀なくされるも、身の回りの自然と濃密な関係を結ぶことになった。

『春はまた巡る デイヴィッド・ホックニー 芸術と人生とこれからを語る』(デイヴィッド・ホックニー&マーティン・ゲイフォード著、藤村奈緒美訳、青幻舎・3850円)は、ホックニーが長年の友人である美術評論家に宛てた手紙や交流サイト(SNS)のやりとり、リモートインタビューで語った言葉を収録している。光や風、木々の中で改めて「見る」行為に立ち戻った画家が、古今東西の芸術や先人たちへと思索を深め、自らの創作につなげていく様子がよく分かる。

高齢でも進取の気性に富むホックニーはiPadでも絵画を描き、2020年4月、数点の作品を英BBCで公開すると大きな話題となった。花咲く春を描いた作品に、多くの人が希望を見つけたのだろう。巨匠は言葉でも問いかける。

「私たちは自然の一部であり外部の存在ではないのに、愚かにも自然との触れ合いを失ってしまいました。今回のことはそのうち終わるでしょうが、その先は? 私たちは何を学んだでしょう?」

散りゆく桜に私たちが無常を感じるように、ホックニーも「死が訪れるのは、生まれたから」だと述べる。万物は流転する。だからこそ「私は人生を愛している」と。生けるものへの愛こそ、彼の芸術の源泉だ。

画家と言葉の関係が気になる。『愛のぬけがら』(エドヴァルド・ムンク著、原田マハ訳、幻冬舎・1870円)も興味深い一冊。美術をテーマにした小説で知られ、本書で翻訳を手掛けた作家の原田マハさんは、ノルウェーの画家エドヴァルド・ムンク(1863~1944年)について、「目の画家、手の画家というよりも、感性の画家であり、言葉の画家でもあった」と分析する。

「叫び」で知られるムンクは、人間の内面を表す表現主義の先駆とされる。幼少期から次々と身内を亡くし、心を駆り立てる不安を描き続けた彼は、同時に多くの文章を残した。

「我々が死ぬのではない。世界が私たちから消滅するのだ」

独特の死生観をはじめ官能的な愛の言葉、舌鋒(ぜっぽう)鋭い芸術論まで、言葉と絵画の両輪からムンクの世界を読み解きたい。

ドイツ生まれの画家・科学者、マリア・ジビーラ・メーリアン(1647~1717年)の評伝『マリア・ジビーラ・メーリアン 蟲(むし)愛(め)ずる女(ひと)』(サラ・B・ポメロイ&ジェヤラニー・カチリザンビー著、中瀬悠太監修、エイアンドエフ・3740円)も面白い。娘とともに南米スリナムへ命懸けの航海を敢行し、卓越した観察眼で動植物を描写、昆虫学の発展に寄与した女性だ。記録した言葉と繊細な絵からは、自然への純粋な憧憬(しょうけい)が伝わってくる。(黒沢綾子)

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