囲碁の中学生棋士、仲邑菫(なかむらすみれ)二段(13)が14日に開幕する第33期女流名人戦三番勝負に挑戦する。数々の年少記録を塗り替えてきた天才少女が13歳1カ月で挑む相手は、それまでの記録を持ち女流4冠の第一人者、藤沢里菜女流名人(23)。コロナ禍でも研鑽を重ねた勉強家が、プロ4年目でのタイトル獲得となるか。
今期の女流名人戦で仲邑二段は、予選を勝ち抜き女性トップ棋士7人が総当たりするリーグに入ると、5勝1敗の1位になり挑戦権を獲得した。仲邑二段は「こんなに早くタイトル戦に出られるとは思っていなかったので、うれしい。少しでも手応えを感じる内容の碁を打てれば」と意気込みを語る。
国際大会で優勝するには中国や韓国のように若年者育成の必要がある-との判断から日本棋院は平成31年、将来有望な小学生をプロにする「英才特別採用推薦棋士」枠を新設。小学5年の10歳で入段した仲邑二段が、現在までの唯一のケースだ。制度を主導した小林覚理事長でさえ「想像よりも恐ろしく早く強くなった」と驚くほどの成長だ。
対戦する藤沢女流名人は「今年に入って、ますます力を上げている印象がある。とくに終盤の強さ、計算力が正確」と話し、「ふだんはかわいい妹のようだが、囲碁に関しては恐ろしい存在」と警戒する。
急成長の要因は何か。「東京に移籍したことが力を伸ばす要因の一つになったのでは」と分析するのは、史上初の5冠保持者である張栩(ちょうう)九段だ。仲邑二段は令和3年1月、関西総本部から東京本院に移籍、住居も移した。張九段は「東京のほうが棋士が多く、勉強できる環境にある。みんなにかわいがられる素直な性格も利点」と指摘する。実績も2年目の21勝から、昨年は約470人の囲碁棋士全体で3位の43勝をあげている。
仲邑二段も参加する研究会を主宰する蘇耀国九段は「対局が多忙にもかかわらず、いつも(インターネット対局で)打っている。先輩が教えるというより、数多く対局することで感覚を磨いていったのでは」と話す。棋力向上を目指す従来の研究会は、大人数が一堂に集まり対局を繰り返すものだった。それが新型コロナウイルス禍で集まることは難しくなったが、逆にネット利用なら好きな時にいくらでも対局できる。
入段を決めた当時、仲邑二段は「中学生のうちにタイトルを取りたい」と目標を語っていた。タイトル保持者に最大3~7局挑む挑戦手合で、藤沢女流名人の従来記録より3年近く早く進出した仲邑二段がタイトル奪取となれば、平成26年のトーナメント戦、会津中央病院杯を藤沢女流名人が15歳9カ月で制した記録も上回る快挙になる。(伊藤洋一)