節電エアコンをサブスク 脱炭素時代の新世界戦略

アジアやアフリカなどの新興国や欧州を中心に日本の空調メーカーの市場獲得へ向けた争いが激化している。省エネ性能の高いエアコンのサブスクリプション(定額課金)制度や、二酸化炭素(CO2)排出量の少ない「ヒートポンプ式」暖房機器の増産など、脱炭素に軸足を置いたビジネスを各社が展開する。生産工程や物流の見直し、燃料費の上昇など、脱炭素へ向けた企業の負担が増大する中、空調メーカーはピンチをチャンスに変えられるのか。

1日150円で定額利用

ダイキン工業は昨年、アフリカ東部のタンザニアで、エアコンを使うときだけ利用料を徴収するサブスクを始めた。設置費用は日本円に換算して約9千円。スマートフォンによる決済システムを利用し、課金するとスマホをリモコン代わりにしてエアコンを操作できる。サイズや使用期間でプランが分かれており、課金は1日約150円から。電気代は利用者負担で、ダイキンの子会社「バリディ・バリディ」がサービスを提供する。バリディは現地の公用語、スワヒリ語で「冷やす」の意味がある。

ダイキンによると、タンザニアでは中国や韓国製の格安エアコンが普及している。本体購入や設置などにかかる初期費用は5~6万円前後で、サブスクを2年弱使い続けた場合の総額に相当する。2年以上使用する場合、格安機のほうがコストを抑えられるように見えるが、バリディ・バリディの朝田浩暉社長は「電気代や故障による想定外の出費で格安機の方が結局、高くつくケースが多い」と話す。

ダイキンがサブスクで提供するエアコンは、モーターの回転数を制御して省エネ性能を高める「インバーター」が搭載されており、電気代は、搭載しない格安機と比べて約4割に抑えられる。また、現地の工事業者の技術不足から設置時点で正常に稼働しないエアコンも大量にあるといい、修理を重ねるケースも珍しくないという。

一方、ダイキンは現地の業者に設置の技術を指導、修理・整備費用も無料で対応しており、「サブスクなら安心して使い続けられると知ってもらえれば利用者は増えるはず」と朝田氏は力を込める。現在、タンザニアでのサブスク契約台数は220台にとどまるが、アフリカのエアコン普及率はわずか1%で、将来の経済成長に伴う需要の拡大が期待されている。

東南アジアに相次ぎ工場

国際エネルギー機関(IEA)によると、2050年までに世界のエアコン台数は56億台に増加し、電力需要は約3倍になると見込まれる。省エネ性能の高いインバーターエアコンの普及は環境負荷低減のためにも必須の課題だ。

日本冷凍空調工業会の推計値をもとにダイキンがまとめたデータでは、18年時点で住宅用エアコンのインバーター機普及率は日本が100%、欧州や中国も80%前後と高い水準を誇る一方で、他のアジア地域や北米、アフリカなどは普及が進んでいない。こうした状況をビジネスチャンスととらえ、日本の空調メーカーは生産拠点の拡大を進めている。

シャープは今年2月、インドネシアの首都ジャカルタ郊外にエアコン生産の工場を新設すると発表。投資額は約40億円で年間約90万台の生産を見込む。東南アジア諸国連合(ASEAN)でのエアコン需要の増加に対応するためで、来年4月からの稼働を予定している。

担当者は「脱炭素のための設備投資にコストはかかるが、長年培ってきた省エネの技術を海外へ向けて展開するチャンス」と話す。同社のエアコンはインドネシアではトップクラスのシェアを誇っているものの、ASEAN全体ではまだ十分に訴求できていないといい「現在ASEANで年間100万台のエアコンを販売しているが、25年中に倍増を目指す」としている。

また、三菱電機も約20億円かけてトルコ工場の生産体制を強化。ダイキンも100億円を投じてインドに新工場を建設する。

欧州ではヒートポンプ

一方、欧州を中心に進んでいるのが、ガスや石油を使った燃焼暖房機器からヒートポンプ式の暖房への転換だ。ヒートポンプ式は、室外の空気中から集めた熱で温めた水を室内の配管で循環させ、暖房や給湯を行うシステム。化石燃料を燃やす暖房機器と比べてCO2排出量を半分以下に削減できるとされ、欧州では補助制度の拡充が進む。フランスなどでは100万円を超える設置費用の半額以上が補助される場合もあり、需要が増加している。

各社も高性能な製品を続々と投入しており、パナソニックが18年10月に欧州で生産を開始したヒートポンプ式温水暖房機「アクエリア」は、石油やガスボイラーと比べて5倍以上のエネルギー効率があるという。

同社は欧州を「当面の最重要地域」(空質空調社の道浦正治社長)としており、今年1月の空調部門の事業戦略説明会では総額1千億円規模の投資を行うと発表した。チェコ工場でのヒートポンプ暖房の製造体制を増強し、販売拡大につなげたい考えだ。

このほか、ダイキンは23年度までに総額1兆4千億円、三菱電機は25年度までに約3800億円の投資を行う方針を示しており、各社の競争は激しさを増していくことが予想される。

りそな総合研究所の荒木秀之主席研究員は「燃料費の上昇から世界的に省エネへの注目は高まっている。脱炭素へ向けた企業の負担は大きいが、空調メーカーは需要をうまくとらえれば利益を上げるチャンスはある」と話した。(桑島浩任)

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