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ライター、永青文庫副館長 橋本麻里『縄文vs.弥生 先史時代を九つの視点で比較する』 連続性具体的に検証

『縄文VS.弥生』
『縄文VS.弥生』

『縄文vs.弥生 先史時代を九つの視点で比較する』設楽博己著(ちくま新書・1012円)

これまでどのような論点が提出され、いかに検証され、乗り越えられ、なお部分的に参照され、今後いかなる展開があり得るのか。本書の面白さのひとつは、農耕、通過儀礼、祖先祭祀(さいし)、政治、土偶など、縄文~弥生時代の社会を理解するにあたって重要な9つの論点を抽出、その立論から検証のプロセスを過不足なくまとめているところにある。

詳細にわたる、丁寧な記述ゆえの説得力は、一般読者が今後接するであろう考古学をめぐる議論に対して、面白いから、衝撃的だから、自らの視点に親和的だからとうのみにすることをやめる、ワクチンになるのかもしれない。

興味をひかれるポイントも、人によってさまざまだろう。いわゆる「縄文ユートピア論」に親しんできた層は、縄文前期から人と人の間に「不平等」といえる状況が生まれ、縄文晩期には「特定の身分が世襲される家系が存在」していたことにショックを受けるかもしれない。あるいは、ロシアによるウクライナ侵攻を念頭に、縄文時代の20倍と見積もられる弥生時代の殺傷人骨、狩猟具などの転用ではない「専用の武器」の出現に目を瞠(みは)るかもしれない。

評者が関心をかき立てられたのは、縄文時代と弥生時代の間に連続性があるという、その連続の仕方が具体的にどのようなものか。たとえば、弥生時代の農耕の中に、縄文時代に特徴的な、多数の食物資源を開発・利用する網羅型の植物利用を引き継ぐ例があること。死者の埋葬でも、縄文時代の再葬(遺骨処理を経る葬法)を継承・強化して集団の統合を安定させ、寒冷化に伴う変動期を乗り越えようとしたことなど、地域や時期のグラデーションも含めた理解の手がかりを、数多く得られた。その読後感は「VS」という二項対立ではなく、「弥生の中の縄文」「縄文という根から発する弥生」に近い。

『チェーザレ 破壊の創造者』13巻
『チェーザレ 破壊の創造者』13巻

『チェーザレ 破壊の創造者⒀』惣領冬実著(講談社・902円)

政治と宗教が激突する中、絢爛(けんらん)たる文化が花開いたルネサンス時代のヨーロッパ。本作(コミック)に描かれるのは、チェーザレ・ボルジアという希代の政治家の人生のほんの一幕だが、そこに萌芽(ほうが)した政教分離へ繫(つな)がる思想的潮流の巨大さに震撼(しんかん)させられる。同時期刊行の本作監修者、原基晶による『ダンテ論 『神曲』と「個人」の出現』(青土社)も併せて必読だ。

橋本麻里さん
橋本麻里さん

はしもと・まり〉 神奈川県生まれ。新聞、雑誌への寄稿の他、NHKの美術番組を中心に日本美術を楽しく、わかりやすく解説。

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