何気ない日常に「発見」 コロナ禍のスランプ乗り越えた女性アーティスト

「心の中を表現できるようになりたい」と話すAjuさん =6日、大阪市北区
「心の中を表現できるようになりたい」と話すAjuさん =6日、大阪市北区

発達障害があり、ボールペンや鉛筆などで緻密な風景画を描く女性アーティスト、Aju(あじゅ)さん(32)=堺市西区。他人とのコミュニケーションが苦手で、絵を描くことが一つの自己表現だ。だが、新型コロナウイルス禍で家にこもりがちになり、2年弱の間、ほとんど絵が描けなくなっていた。そんな苦境を脱するきっかけになったのは、何げない日常の光景だった。

まっすぐにそびえ立つ大阪市阿倍野区の商業施設「あべのハルカス」。壁面には精緻なタッチで陰影がつけられ、背後に受けた強い日差しを浮かび上がらせている。Ajuさんが描く作品の一つだ。「ただ描くことが楽しくて、描きたくて描いています」と屈託なく笑う。

幼いころから数字や規則性に強いこだわりがあり、大学生のころに発達障害の一つ、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された。「障害」という言葉が重くのしかかり、現実逃避するように絵を描き始めた。外を歩けば、いろんな映像が頭の中に強く残る。「描きたい」という気持ちは自然と湧き上がった。

だが、新型コロナ感染拡大で出かけることはほとんどなくなった。一方で自身が描く絵は、いつも代わり映えしなかった。「絵を描くことは小さな発見が大事。発見がないなら絵は成長しない。成長がないのに描き続けていいのだろうか」。悩むうちに、絵を描く手が止まった。

それでも、新しいことを吸収しようと、日々もがいた。本や新聞を読んだり、家の畑に植えられた植物を観察したり。「描くこと以外で〝種まき〟をしようと思いました」

変化が訪れたのは、絵が描けなくなって2年弱がたった昨年冬ごろ。ふと、あることに気づいた。まぶしい朝日によってできる濃い影に、夕方になって畑の土ににじむ柔らかな赤い光。これまでの作品は、すべての線を同じように丁寧に描こうとするあまり平坦(へいたん)になっていたが、実際には光の当たり方によって、ものの見え方は異なる。「線の強弱によって、光と影を表現してみたい」。いつのまにか、再び絵を描いていた。

次の課題は、絵で感情を表現することだ。人と出会ったりニュースを見たりすると、心が動く。ロシア軍のウクライナ侵攻に関するニュースに触れたとき、いてもたってもいられなくなる。ただ、そうした心の変化を表現するすべを、まだ持ち合わせていない。テレビの向こうにあるウクライナの風景をそのまま描いても、自身の気持ちを表現することはできない。

「ウクライナのニュースを見て、今心がすごく動いていて、平静ではいられない。絵に力があればいいのにと思う。いつかそういうものが全部描けるようになりたい」

(江森梓)

Ajuさんの作品は10日まで、大阪市北区の天神橋筋商店街内の「てんコモリスタジオ」で展示されている。入場料は無料。午前11時~午後5時。

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