国連総会(加盟193カ国)は7日の緊急特別会合で、ウクライナに侵攻したロシア軍が一時占領した地域で民間人の虐殺遺体が見つかったことを受け、国連人権理事会でのロシアの理事国資格を停止する決議案を日米欧など93カ国の賛成多数で採択した。決議は「ロシアによる重大かつ組織的な人権侵害があった」として「重大な懸念を表明する」と明記した。
中国やロシア、北朝鮮など24カ国が反対し、インドやブラジル、アラブ首長国連邦(UAE)など58カ国が棄権した。来年末までが任期のロシアの理事国資格は停止され、ロシアの人権理からの追放が決まった。
決議案を主導した米国のトーマスグリーンフィールド国連大使は「被害者と生存者の苦しみを無視することはできないという明確なメッセージを送った。国際社会は正しい方向へ一歩踏み出した」と強調した。
人権理での資格停止は反体制デモの武力弾圧を理由に2011年に停止されたリビアのみ。ロシアのポリャンスキー国連次席大使は「採決後に人権理を脱退した」と表明した。人権理のゴメス報道官によると、ロシアの人権理での地位はオブザーバーに変更された。
採決に先立ち、ウクライナのキスリツァ国連大使は「露軍はウクライナの何十もの自治体で人々を殺害し、拷問し、レイプした」と非難、「これは戦争犯罪や人道に対する罪ではないのか」と問いかけ、決議案への賛成は「選択肢ではなく義務だ」と訴えた。
ロシア代表は虐殺への関与を否定し、「偽情報に基づく真実ではない申し立てを拒否する」と訴えた。
3月に2度採択されたロシア非難決議と比べ、賛成は50カ国近く減ったのに対し、反対は20カ国近く、棄権は20カ国以上増えた。ロシアが一部の国に強い圧力をかけたほか、独立した調査の結果報告を待たずに資格停止に踏み切ることに反対した国が複数あった。
UAEのヌサイベ国連大使は会合で、ロシアの侵攻やウクライナで起きた国際人道法違反を非難する立場を堅持したうえで、「調査は始まったばかりだ。適正な法の手続きは尊重されるべきだ」と主張した。
ただ、虐殺された遺体は露軍が占領していた地域で見つかっており、欧州連合(EU)のスコーグ国連大使は「ロシアはウクライナで実効支配していた地域で起きた犯罪に責任がある」と指弾した。
他方、中国の張軍国連大使は「いくつかの国がアジア太平洋を含む地域で緊張を高めるブロックを形成している」と述べ、日米豪などを念頭に決議案は政治的な動機に基づくものだと批判した。日本の石兼公博国連大使は「地政学的な対決によるものではなく、ロシアの選択による避けられない結果だ」と指摘した。
人権理は47カ国で構成しスイスのジュネーブに本部を置く。国連総会の下、人権問題に関する世論を喚起し、人権状況の改善を達成する役割を担っている。(ニューヨーク 平田雄介)