東野圭吾の同名小説を、2016年に舞台化したオリジナル・ミュージカルの再々演。犯罪加害者家族が苦しみ続ける姿を描く硬派作で、再演のたびに脚本や演出が見直されてきた。今回、特に音楽面(深沢桂子作曲・音楽監督・作詞)の充実が目立ち、ミュージカル作品として大きく飛躍を遂げた。高橋知伽江脚本・作詞。藤田俊太郎演出。
両親がなく、支え合ってきた兄の剛志(spi)と、弟の直貴(村井良大)。弟の進学費用のため、兄は空き巣に入って強盗殺人を犯してしまうが、その日から弟の日常も一変。バンド活動、恋愛、就職でも差別や偏見に苦しむ-。
舞台は上下2層構造。さら下部は、独房のような可動式の小さな箱に分かれ、社会から隔絶している受刑者の兄と、世間の冷たい仕打ちにさらされる弟とを同時に見せるなど、2つの世界を鮮やかに交差させる。そして月1回、兄から届く手紙が、2人をかろうじてつなぐ。
時代設定は小説が書かれた1999年から2011年とひと昔前。しかし犯罪加害者家族の弟が、家族のプライバシーを暴かれ、噂話の拡大に苦悩する姿は、むしろ今のネット社会に強く警鐘を鳴らす。加害者家族として、どう生きるか。壁にぶつかり続けながら、その答えを求める弟役を、村井が誠実な持ち味を生かし、真っすぐ演じる。さらに弟思いながら、短絡的に罪を犯した兄を、大柄なspiが素朴かつ不器用に演じ、初役の2人が作品に新たな命を吹き込む。
そして苦しむ弟を支え、後に結婚する由実子に、話題の映画「ドライブ・マイ・カー」で好演した三浦透子。三浦は初ミュージカル出演だが、名前の通り透明な歌声にハッとさせられた。兄からの手紙を読まずに捨てる弟を諭し、兄弟2人をわが身以上に思って行動する強さと美しさが、声にも表れていた。今後、ミュージカルでの活躍も期待したい。
物語の最後、弟から絶縁宣言をされた剛志が、刑務所の慰問バンドの中に弟を見つけ、再会を果たす。全体にロックテイストのミュージカルが、この時ばかりは無音になり、時が止まったように兄弟が舞台の上下で見つめ合う。その瞬間の重さと、積み重なった年月の長さを、ともに体験した気持ちにさせられた。
特筆したいのは、新たな主題歌「Get Over Myself」の素晴らしさ。直貴が今までの自分を乗り越えようとする、魂の吐露のような歌で、劇中、随所で印象的に流れ、歌詞もメロディーも耳に残る。オーケストラ編成も拡大され、ミュージカルとしての格がぐんと上がった。今後も定期的に再演してほしい、日本発のオリジナル・ミュージカルである。
3月12~27日、東京建物Brillia Hall。(飯塚友子)
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