ビブリオエッセー

闘うジャーナリストの姿 「そいつを黙らせろ―プーチンの極秘指令」マーシャ・ゲッセン著 松宮克昌訳(柏書房)

世界中で今、一番注視されている男、ロシアのプーチン大統領について書かれた2012年のノンフィクションである。ウクライナ侵攻以来、プーチンに関する本や文章、映像はおびただしいが、この10年前の本が「危険な男」への警告を発していた。

著者マーシャ・ゲッセンは1967年、モスクワ生まれのユダヤ系ロシア人ジャーナリスト。長年にわたりプーチン批判の報道を続け、2013年にはアメリカに亡命している。著者の身を案ずるのは私だけではない。この本も、「ジャーナリスト生命を危険にさらすことが容易に想像されることから、ロシア語版は発行されていない」(あとがき)そうだ。

この本はプーチンの経歴をたどり、数々のエピソードが精神の軌跡を浮かび上がらせる。そして批判者や周囲の人間の失脚、失踪に言及する。真実が消されるように人も消えていった。

内部告発者として2006年に毒殺された元ロシアFSB(連邦保安庁)将校のリトヴィネンコは昏睡状態に陥る一両日前、死後に公表してほしいと声明を残していた。

「あなたは一人の人間の口を封じることができたかもしれないが、プーチン氏よ、世界中の抗議のざわめきは、あなたの命が尽きるまであなたの耳元に響くであろう」

ゲッセンはある時、プーチン本人から電話を受け、面会した。自分の自然保護活動の取り組みを報道してほしいと依頼される。PRに使われるなど論外。編集への介入を断り、「雑誌は軍隊であってはなりません」と返した。

「そいつを黙らせろ」という言葉は今、世界からプーチン自身へと投げかけられている。プーチンとは何者なのか。この問いに真正面から答える一冊だろう。

山形県天童市 古間恵一(63)

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