日本がロシア制裁の輪を弱くしてはいけない。西側諸国と足並みを揃(そろ)えるためにも、ロシア外交官の追放をためらうべきではない。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、国連安全保障理事会会合でオンライン演説し、ロシアによるウクライナ侵略を非難した。市民虐殺について、第二次大戦以降で「最も恐ろしい戦争犯罪」であり、ロシアは裁かれるべきだと強調した。
首都キーウ(キエフ)近郊のブチャの路上に放置された遺体を写した動画が放映されると、その凄惨(せいさん)さに会場が静まり返るほどだった。近接するボロディアンカではそれ以上の被害が確認された。犠牲者はさらに拡大する見通しだ。民間人の殺害を禁じた国際人道法違反であり断じて許されない。
これに対し、ロシアのネベンジャ国連大使は「露軍に関する大量のうそを聞くことになった」と反論し、民間人虐殺を否定した。
国際会議の場で証拠を突きつけられてなお、自らの残虐行為を否定する姿勢に、西側諸国が反発を強めているのは当然である。
欧州ではドイツ、フランス、デンマークのほか、バルト三国のエストニアなどの各国が、ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)として、露外交官計約300人を追放の対象に決めた。米国は3月初め、ニューヨーク国連ロシア代表部の外交官ら13人を追放し、ロシアが報復している。
問題なのは、日本の動きの鈍さだ。松野博一官房長官は5日の会見で「状況を踏まえ、適切に対応する」と述べるにとどまった。政府が慎重なのは過去に3件しか追放した事例がないためという。
昭和48年、韓国の金大中氏(後の大統領)拉致事件では韓国外交官を追放したが、大規模追放の前例はない。
ロシアが報復すれば大使館や領事館の業務に支障が生じる。だが各国とも報復は覚悟の上だ。日本が露外交官を追放しない言い訳にならない。日本の消極姿勢はむしろ、西側諸国の結束を乱す印象を与えることになる。
岸田文雄首相は日本がG7(先進7カ国)とともに対露制裁に踏み切った時点で、ロシアから「非友好国」に指定されていることを忘れたのか。無用な配慮はロシアに足元をみられるだけだ。
日本政府には、毅然(きぜん)とした姿勢が求められる。