偏見の暴力から復活 ジャズピアニストの海野雅威が新作

米ニューヨークで暴漢に襲われたけがからの復帰作を発表したジャズピアニスト、海野雅威=東京都渋谷区
米ニューヨークで暴漢に襲われたけがからの復帰作を発表したジャズピアニスト、海野雅威=東京都渋谷区

米ニューヨークで暴漢に襲われ、大けがをした日本人ジャズピアニスト、海野雅威=ただたか、(41)=が復帰作「Get My Mojo Back」を発表した。

ニューヨーク在住の海野は2020年9月、帰宅途中の地下鉄通路で8人組に襲われ、右肩を複雑骨折するなどの重傷を負った。「〝中国人〟は出ていけと言われた」。アジア人を無差別に狙ったヘイトクライムとみられたが、その後、警察から連絡はない。

「コロナ禍で地球全体が疑心暗鬼の時代を象徴するような事件でしたが、僕は友人たちに支えられて、ここまで戻ってこられた。光と闇を同時に見ました」

右肩は今も痛むが、「生きているだけでありがたい。その上ピアノが弾ける」と海野は前向きだ。

9歳のとき、父親と出かけた東京のライブハウスで、ドラムの巨人、アート・ブレイキーから「ナイス・ボーイ」と頭をなでられた。この出会いが海野をジャズに導いた。

東京芸大在学中の18歳からジャズピアニストとして国内で活動。だが、「憧れの演奏家たちと交流しないと後悔する」と27歳で渡米。ニューヨークに住み、本場のジャズクラブに飛び込んだ。「われながら、よくそんなことをしたものだ」と笑うが、ドラマーのジミー・コブやピアニストのハンク・ジョーンズらジャズの歴史上の人物たちの最晩年に交流を持てた。

今回が、けがから復帰した最初のアルバム。題名には、「人は不思議な力で生かされているのだから、命に感謝し、お互いを敬おう」という願いを込めた。「ヘイトクライムをはじめ、世の中の理不尽をなくすことが僕の新しい使命かもしれない」とも。

伝統的なモダンジャズ・サウンド。そこに、カリブ海生まれのカリプソ風味が加わった明るい演奏が印象的だ。最先端のサウンドではないが、海野は「一番やりたかったことができた」と会心の笑みを浮かべる。

「ニューヨークに暮らして15年目。時間をかけて信頼を築いた音楽仲間と、僕ならではの音楽をようやく作ることができたのがこの新作なんです」(石井健)

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