ウクライナから日本に避難した若者らに日本語教育を無料提供しようと、各地の日本語学校が難民支援団体と連携し、プロジェクトを立ち上げた。100人の受け入れを掲げ、クラウドファンディング(CF)での資金調達を目指している。異国の地での生活も支援する方針で、担当者は「こうしたときだからこそ力になりたい」と語った。
「空襲サイレンが鳴っていて、悪い情報がある。(日本で)少し落ち着いて、ウクライナのために何ができるか考えたい」。3月末、大阪市阿倍野区の専門学校「清風情報工科学院」。ウクライナからの留学を希望するユリアさん(24)がオンライン面談でスタッフに訴えた。
東部ドニプロ出身のユリアさん。国立大学で日本語を学び、卒業後に現地の塾で子供たちに日本語を教えていたところ、戦渦に巻き込まれた。
プログラマーの父と医師の母はドニプロに残り、「国のために働いている」(ユリアさん)。1人になったユリアさんは、郊外の村の親戚の元に身を寄せていた。
周辺で大きな被害がないことは幸いだ。しかし東部ハリコフにいる知人に連絡した際には、電話口から爆発音が聞こえ、「本当に恐ろしかった」。
清風情報工科学院との縁はSNS(交流サイト)がきっかけ。同学院が各地の日本語学校や難民支援団体と連携し、「ウクライナ学生支援会」を立ち上げたことを母が知り、教えてくれた。「日本語だけでなくデザインやイラストも学びたい」との思いもあり、応募したという。
支援会は3月中旬に設立された。日本に避難した若者らに日本語教育を無料提供し、生活補助費も支給するというもので、約30の専門学校や日本語学校などが賛同した。清風情報工科学院は20年前から2千人以上の留学生を受け入れてきた実績があり、支援会代表を務める平岡憲人(のりと)校長は「われわれの経験が役に立つときが来た」と話す。
100人の支援を目指す支援会。CFで資金を募っており、同学院の担当者は「資金が増えれば支援できる避難民は増える。さらなる協力をお願いしたい」としている。
支援会はすでに、数人の来日希望者との面談を終えた。ユリアさんも今月上旬に来日できる可能性があり、平岡校長は「できるだけ多くの難民を支援し、力になりたい」と訴えた。
新たな出発までに高いハードル
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、ウクライナ国外への避難民は400万人超。今後、日本でも受け入れが増加するとみられるが、文化や生活習慣の違いもある。どんな障壁が想定されるのか、専門家に聞いた。
留学生支援に取り組むNPO法人「留学協会」(東京)の各務(かかむ)智仁理事(39)によると、最初の壁は行政手続きや賃貸、携帯電話などの契約だ。「日本語が難しく、(留学生の場合、)大学側の支援も乏しい。生活のスタートラインに立つまでに苦労するケースが目立つ」という。
医療や災害情報の多言語化は進んでいる。しかし言語で情報量に差があり、必要な情報が十分に行き届いていないケースもある。
生活を始める上での必需品や金銭的な支援に加え、情報共有のための同じ国籍の在日外国人コミュニティーの紹介なども不可欠だ。各務さんは、周辺で見守る地域住民に対しても「温かい目で見守り、必要としているときは手を差し伸べてほしい」と求めた。(小川原咲、桑村大)