ホームレスの人たちの自立を支援する雑誌「ビッグイシュー日本版」が応援広告の場として注目を集めている。お気に入りの俳優を応援する「推し活」の一環として、ファンが裏表紙に広告を出稿。推しの露出を増やすとともに、雑誌の収益が社会貢献活動にもなるというユニークな取り組みで、評判を呼んで第3弾まで実施。今後も続きそうな勢いだ。
驚きの売れ行き
昨年12月1日号の裏表紙に、タイの人気俳優で「ガルフ」ことカナウット・トライピパタナポンさんが12月4日に24歳になるのを祝う広告が掲載された。多数のファンが雑誌を買い求め、保存用に複数冊を購入する人も続出。販売員たちが「(今号に)何かあるの?」と驚くほどの売れ行きで、交流サイト(SNS)には「初めてビッグイシューを買った」「(雑誌購入が)支援につながるっていいね」などの声があふれた。
応援広告第1弾の広告主は、ガルフさんのファンでつくる日本国内の非公式ファンクラブ(FC)「ガルフ・カナウット・ジャパンファンクラブ」。出稿費用は昨年10月からツイッターで寄付を募り、写真掲載についての所属事務所との交渉や広告のデザインなどもFCのメンバーが自力で行った。
ビッグイシューを応援広告の媒体に選んだ理由について、企画したメンバーの女性は「ただ掲載するだけでなく、楽しく『推し活』をして多くの人に『推し』のことを知ってもらいながら、構えることなくホームレスの自立を支援する社会貢献につながればと思った」と説明。「推し、ファン、社会に役立つ『三方よし』の活動です」と話す。
寄付文化に倣う
これが話題となり、2月には「ミュウ」の愛称でタイで活躍するアーティストのスパシット・ジョンチーウィーワットさん(31)、3月には韓国人俳優のキム・ナムギルさんの誕生日を祝う応援広告が相次いで掲載された。さらに、7団体・個人からの問い合わせがあるという。
ミュウさんの広告を出した日本のファン有志グループ「ミュウ・バースデー・プロジェクト・イン・ジャパン」の女性メンバーは「敬虔(けいけん)な仏教国のタイでは寄付文化が定着している。私たち日本のファンも倣おうと思った」。雑誌を購入した際に販売員から「ありがとう。これで今日の晩ご飯が食べられる」と感謝され、感激しながらホームレス問題を意識したファンもいるという。
ビッグイシュー日本広報担当の佐野未来(みく)さん(51)によると、以前は各販売員が1号あたり平均約175冊を販売し、月平均8万500円の収入を得ていたが、新型コロナウイルス禍で人通りが少なくなり、売り上げは激減しているという。そうした状況の中で推し活を兼ねた支援の輪の広がりに「ビッグイシューを知らなかった新しい人も買いに来てくれた。販売員にとって励みになっている」と喜び、今後の応援広告にも期待する。
■ビッグイシュー■
英ロンドン発祥の雑誌。日本語版の発行は平成15年に大阪で始まった。販売員として登録したホームレスの人に最初に10冊を無料で提供。路上などで1冊450円で売ると、230円が販売員の収入になる仕組みで、自立を支援する。現在は月2回発行。約100人が12都道府県で販売する。
韓国発祥、日本でも広がる
同じ芸能人やキャラクターなどの「推し」を応援するファンが集まり、駅や街頭、雑誌などに広告を出す応援広告。現代の韓国文化に詳しい立命館大学の山本浄邦(じょうほう)講師(48)によると、発祥は韓国だという。K-POPファンの間で熱心に行われ、その後、タイや中国などアジア圏を中心に浸透した。
日本で有名なのは平成28年、アイドルグループ「SMAP」の解散にあたってファンがクラウドファンディングで資金を募り、全国紙に掲載した感謝の気持ちを伝える広告だ。令和元年には、応援広告が盛んな韓国発人気オーディション公開番組の日本版が放送されたことを機に、日本でも広く行われるようになった。
推しの誕生日や記念日などに合わせて行うのが一般的だが、近年は社会貢献と結びつけた動きも増えている。海外ではファンが推しの名義で福祉団体に米などを寄付する活動があるほか、ビッグイシュー日本版に応援広告を出した「ガルフ・カナウット・ジャパンファンクラブ」は昨夏、国内72カ所の献血ルームに特製ポスターやパネルを掲示して、ファンの献血を促した。山本講師は「Z世代のアーティストやファンが増え、楽しみながら気軽にという今どきの社会貢献のあり方では」と話している。(木ノ下めぐみ)