自民党が夏の参院選に向け、組織票固めを強化している。党総裁の岸田文雄首相は5日夕、東京都内のホテルで開いた各種の業界団体との懇談会に出席し、選挙への協力を要請した。自民は、比例代表に組織内候補を擁立した業界団体の競い合いによって比例代表全体の票の上積みを図る戦略を描く。
5日の懇談会は農林水産、建設、運輸・交通、労働などの分野の業界団体を集め、首相や茂木敏充幹事長ら党幹部、関係閣僚が出席した。今月中旬までにさらに2回、医療・福祉、教育、金融など他の業界を対象に開催する予定だ。
業界団体をめぐる動きは活発化している。首相は3月31日、日本歯科医師連盟(日歯連)の高橋英登会長と官邸で会い、歯科治療で使う金銀パラジウム合金の価格高騰対策を要望され、「関係部署にすぐ伝達して対応する」と応じた。
日歯連は元会長らによる迂回(うかい)献金事件などの影響で、正式な組織内候補は見送ってきたが、今回9年ぶりに擁立を決めた。会員数約5万人の有力団体の参戦で当選枠をめぐる団体間の競争は激化しそうだ。
平成24年の政権奪還以降、自民の比例代表の当選者は18~19人で推移し、今回も「同じくらい」(参院幹部)を見込む。ただ、令和元年の前回参院選で、特定の候補を優先的に当選させる「特定枠」を導入。今回も合区対象県の候補2人に適用する見通しで、2枠はあらかじめ埋まる。前回の最下位当選者の得票数は13万1千票で、特定枠がなかった前々回(平成28年)の10万1千票に比べてハードルが上がった。
これに対し、自民は比例代表で27人を公認しており、業界団体の組織内候補が半数ほどを占める。近年の比例代表では全国郵便局長会(全特)の「1強」状態で、組織内候補の一人は「楽観できるのは全特だけ」と語る。
医療・福祉分野だけみても医師、看護師、薬剤師、歯科医師、理学療法士などが乱立している。参院自民幹部の一人は「各団体が(競い合いで)本気になって票を出せば比例票全体が増え、当選者も増える」と期待する。(田中一世)