ザ・インタビュー

心の病と闘わない「幸せ」 プロ野球選手・川﨑宗則さん著『「あきらめる」から前に進める。』

「理想をあきらめてしまった方が、体が自由に動くこともある」と語る川﨑宗則選手(KADOKAWA提供)
「理想をあきらめてしまった方が、体が自由に動くこともある」と語る川﨑宗則選手(KADOKAWA提供)

球春到来。プロ野球選手として23年目のシーズンが始まる。

「ムネリン」の愛称とハッスルプレーで親しまれ、福岡ソフトバンクホークスや米メジャーリーグ(MLB)で活躍した川﨑宗則選手も、今年6月で41歳になる。現在は独立リーグ、ルートインBCリーグの栃木ゴールデンブレーブスでプレー。若い選手に寄り添いつつ「まだまだうまくなりたい」「いつかイチローさんのように美しく、速く走りたい」とグラウンドに立ち続けている。

『逆境を笑え』『閃(ひらめ)きを信じて』に次ぐ3冊目の著書。ただし前作を出した当時とは、生き方や考え方にも変化があった。

2017(平成29)年にMLBからホークスに復帰するも、自律神経の病で入院生活やリハビリ生活を送ることになり退団、一時は野球をやめる決断もしたという。それでも2年のブランクを経てフィールドに帰ってきた。台湾リーグ、独立リーグに身を置き、多様な「プロ野球」を体感した上で、「選手としてひとりの人間として今、とても充実している」と語る。

「ファンの皆さんも、病気で休んでいた時期のことなど知りたかったと思うし…」。心の病を経験した今の僕にしか話せない言葉がある-。不惑のムネリンの現在地がわかる一冊だ。

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ホークスの日本一や日本代表のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)優勝に貢献し、俊足好打の内野手として輝かしい実績を持つ。野球選手としての土台は、中学時代の経験にある。公立中の野球部で、顧問に野球経験がないことも。部員自ら主体的に動き、鹿児島県ベスト4まで進出できた充実感と達成感が、心底野球好きにしてくれたと振り返る。さらに練習のかたわら、同級生とバンドを組みベースを担当、ライブ活動をしていたというから驚く。

〝異例〟の球歴を持つムネリンは、一つの価値観に染まらない。プロ入り直後は先輩との実力差にヘコむも、さっさと脳内の〝理想の選手像〟をあきらめ、「純粋に日々を楽しもうと切り替えた」。MLBに渡った時も、「野球だけでなく、文化をとにかく肌で感じたい」とあえて通訳を付けなかった。

独立リーグでプレーする現在は、動体視力などを調整すべく、地元のバッティングセンターにも通う。「いろんな人が声を掛けてくれる(笑)。小中学生や親御さんに質問されて、〝プチ野球塾〟がその場で始まったりね。それも楽しみ」とほほえむ。「ここでは野球以外のプレーも大切」。地元の人々と深く関わりながら、野球ができる喜びをかみしめている。

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柔軟な発想で唯一無二の野球人生を歩むムネリンだが、いつも元気ではいられない。心療内科の治療は続けているという。「一生直さない、闘わないと決めたんですよ。歯医者さんにちょっと歯垢を取りに行く感覚。心の垢(あか)取りです」と笑う。

プロ野球は結果がすべて。でも病を得て、見える景色も変わった。だから若手選手にはこう言いたい。「一軍は幸せ、二、三軍は不幸で悪いと考えないでほしい。皆それぞれ立ち向かっているし、幸せかどうかは人それぞれ。ごはんをおいしく食べて、ぐっすりと寝てほしい(笑)」。近年はSNSなどで、選手とファンと直接つながる機会も増えたが…。「距離が近いし応援が励みになることは多いけれど、いろんな情報が入り、傷つき、メンタルに影響している選手も少なくないでしょうね」

眠れない、空腹が続く、原因不明の痛み…。本書には、自らが最初に感じた体の異変や、リハビリの苦労、当時の思いなどを包み隠さず記している。

「順風満帆に突き進む人にこの本は必要ないかもしれない。でもちょっと立ち止まったり、変な感じがするな、幸せ度が低いなと感じたとき、読んでほしいなと思います」

3つのQ

Q栃木の好きなところは?

人が優しい。温泉でくつろいでいると、声を掛けるタイミングを配慮してくれたり…

Qよく聴く音楽は?

洋楽ばかり聴いてます。ブルージェイズ時代にファンになった(カナダの人気ラッパーの)ドレイクとか

Q将来の夢は?

球団を新設して雇用を増やし、地域密着で盛り上げたい。野球の環境を整えるお手伝いがしたい

かわさき・むねのり 1981(昭和56)年、鹿児島県出身。県立鹿児島工業高卒。99年のドラフト4位で福岡ダイエーホークスに入団。2012年に米シアトル・マリナーズに移籍。トロント・ブルージェイズ、シカゴ・カブスを経て17年に福岡ソフトバンクホークスに復帰、翌年退団。台湾リーグの味全ライオンズを経て20年に独立リーグの栃木ゴールデンブレーブスと契約、現役でプレーしている。

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