書店バックヤードから

鎌倉殿、平家物語で注目の「鎌倉」を読む

(左から)『マンガ日本の古典 平家物語(上中下)』(横山光輝著/中公文庫)、『方丈記』(鴨長明著、蜂飼耳訳/光文社古典新訳文庫)、『鎌倉の家』(甘糟りり子著/河出書房新社)
(左から)『マンガ日本の古典 平家物語(上中下)』(横山光輝著/中公文庫)、『方丈記』(鴨長明著、蜂飼耳訳/光文社古典新訳文庫)、『鎌倉の家』(甘糟りり子著/河出書房新社)

大阪の書店員がおすすめ本について語り合う「書店バックヤードから」。NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」やアニメ「平家物語」(フジテレビ)の舞台となっている平安末期から鎌倉時代が今、注目されています。平家物語やその登場人物は能や歌舞伎、文楽など伝統芸能の題材としても人気ですが、何百年も人をひきつけてやまないのには理由があります。今回は時代の転換点となった「鎌倉」に焦点を当て、乱世を生きた人々や鎌倉という土地についてひもといていきます。(司会は文化部・田中佐和)

田中 今回から新メンバーが加わります。自己紹介をお願いします。

百々 紀伊国屋書店梅田本店で専門書(社会、人文、自然科学)を主に統括している百々典孝(どど・のりたか)です。よろしくお願いします。

田中 百々さんは平家がお好きだそうですね。

百々 好きどころか平家オタクです。

田中 ずばり、この時代の面白いところは。

百々 平安中期までは天皇を中心とした貴族や神社仏閣が歴史を作っていたのが、末期以降は貴族の〝番犬〟だった武家ら一般大衆が力を持つようになり、かれらが文化や歴史を作り始める。そこですね。

中川 すごいな。僕は歴史は詳しくないので…。

スタンダードブックストア・中川和彦さん選

・鴨長明著、蜂飼耳訳『方丈記』(光文社古典新訳文庫)

・ペン編集部編『PenBOOKS 運慶と快慶。2人の男が仏像を変えた』(ペンブックス)

・入間田宣夫監修、森藤よしひろ漫画『漫画版 日本の歴史(4)鎌倉幕府と南北朝の争乱―鎌倉時代・南北朝時代・室町時代1―』(集英社文庫)

中川 メインは鎌倉時代に書かれた『方丈記』にしました。鴨長明は世間に嫌気がさしたのか、出家して小さな庵で暮らしていたんですが、俗世を捨てきれていない人間らしさがにじんでいて面白い。

鴨長明著、蜂飼耳訳『方丈記』(光文社古典新訳文庫)
鴨長明著、蜂飼耳訳『方丈記』(光文社古典新訳文庫)


田中 方丈記は当時の世の中を観察しながら書かれた随筆ですね。

百々 「吾妻鏡(あずまかがみ)」という鎌倉幕府の公式資料のような歴史書がありますが、それだけで鎌倉時代は分からない。方丈記は権力者とは関係のない人の視点でその時代や文化を書いていて面白い。権力者の争いは彼らにはむなしくうつったかもしれないですね。

中川 もう1冊は鎌倉時代を代表する2人の仏師の作品を紹介した「運慶と快慶。」。この時代は浄土宗や浄土真宗が生まれたり、運慶と快慶が後世に残る大作を作ったり、一体どういう時代なんだって興味がわきます。

持田 私は歴史は苦手なので、全く違う角度から選書しました。

MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店・持田碧さん選

・甘糟りり子著『鎌倉の家』(河出書房新社)

・西岸良平著『鎌倉ものがたり』(アクション・コミックス)

・谷川俊太郎作、合田里美絵『ぼく』(岩崎書店)

持田 鎌倉って歴史が感じられて好きな街なんですけど、そこで暮らしている人の視点や風景が感じられる本がいいなと考えて『鎌倉の家』。エッセーです。作家の甘糟さんは都心での生活をやめて鎌倉の実家に戻るんですけど、古い立派な日本家屋で。来客時の品書きや器などを記したお母さまの「献立ノート」を譲り受けて地元の食材を料理して友達をもてなしたり、生活がすてきなんです。それだけじゃなくて、地元の人でなければ見えない世界、見えない鎌倉が詰まっています。2冊目は「鎌倉ものがたり」というコミックで、映画にもなっていて。

甘糟りり子著『鎌倉の家』(河出書房新社)
甘糟りり子著『鎌倉の家』(河出書房新社)

田中 堺雅人さん主演、ヒロインが高畑充希さんでしたね。

持田 作家の先生と奥さんの2人が主人公で、鎌倉の街を舞台にいつもちょっとした事件が起きて、それになんと妖怪が絡んでいる。1つずつは短いお話で、絵も温かくてほっこりします。

田中 歴史のせいなのか、鎌倉や京都って妖怪が不思議となじみますよね。最後は百々さんです。

紀伊国屋書店梅田本店・百々典孝さん選

・横山光輝著『マンガ日本の古典 平家物語(上中下)』(中公文庫)

・元木泰雄著『河内源氏 頼朝を生んだ武士本流』(中公新書)

・長崎浩著『乱世の政治論 愚管抄を読む』(平凡社新書)

百々 メインは『マンガ日本の古典 平家物語』です。平家物語は長いのでだいぶ端折ってはあるけれど、とても読みやすい。なぜ源頼朝が鎌倉に幕府を開かなければいけなかったのか、もよく分かります。

横山光輝著『マンガ日本の古典 平家物語(上中下)』(中公文庫)
横山光輝著『マンガ日本の古典 平家物語(上中下)』(中公文庫)

百々 続いてお薦めするのが「河内源氏」。平家のスーパースターは平清盛だけですが、源氏はスーパースターだらけです。例えば大江山の鬼退治で有名な源頼光、鵺(ぬえ)という妖怪退治の伝説が残る源頼政。そして一番のスターは源頼朝の弟、義経ではないでしょうか。頼朝や義経、彼らの父、義朝はもとは現在の大阪・羽曳野を所領とした河内源氏の一族です。この一族のことを知れば、より鎌倉時代が面白くなるはずです。

田中 一般大衆、文化、鎌倉という土地、平家と源氏、いろいろな切り口の本がそろいましたね。

中川 学校の授業では権力者の名前や年号ばかり覚えさせられるけど、それは本当に歴史を学んだことになるのかな。今起きている戦争も、歴史として次世代に語り継がれるときには時の権力者の話ばかりではなくて、市民はどう思っていたのかとか、いろんな角度からの話を伝えていかなあかんなと思いました。

大阪にある本屋さんの書店員たちが集まり、毎月テーマに沿ってそれぞれが本を選び、語り合います。


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