近年、犯罪事件の質と様相は手口や動機も含めて、随分と様変わりしつつある。例えば、ネットを使った犯罪がその代表例だろうが、従来の常識では考えられなかった形式の犯罪が確実に増えている。
だが、そうした新手の犯罪に対して、警察は十分な対応ができていないのが実情だ。その理由の一つに、部署ごとの縦割りとなっている組織の弊害がある。そこで考え出された捜査方法が、MIT(ミッション・インテグレイテッド・チーム)だった。事件の性質に応じて、そのつど各部門が適任者を出し合い、特別編成のチームを作って捜査を展開するという設定だ。
本書は、4人の警察官がこのMITに招集されることから始まる。メンバーの陣容は警視庁捜査1課と3課の刑事、警備課所属の元機動隊員、警察庁警備局運用部所属の課員…と、普段はまったく接触のない4人だった。こうした班は、ほかにも多数編成されるが、彼ら4人の任務は、あるスポーツメーカーの周辺調査と、日本人最速マラソンランナーの警護であった。
世界5カ国で開催され、公営ギャンブルの対象となるマラソンレースの東京大会が、国際テロリスト集団に狙われているという情報があったのだ。テロ集団の目的は、まずレースそのものの無効化、およびスポーツメーカーが開発した、最新シューズと多機能ウエアの機密情報。
もちろんランナーへの直接危害も心配された。
ストーリーはきわめてシンプルだが骨太い。多彩な登場人物が、それぞれの思惑と個人的な背景を抱えながら行動し、複雑に絡み合っていく姿も印象的で素晴らしい。その中心を貫いているのが、何かを追求する、夢見る人間たちの心意気である。
刑事が思う安寧な社会、2時間切りを目指すランナーの理想の走り、ランナーを支える職人たちの究極技術。みながみな、目標に向かい、ゴールに向かってひたすら走っていくさまが、何とも眩(まぶ)しく映るのだ。と同時に容易に姿を見せない敵との攻防戦が圧倒的な緊張感を生んでいる。警察小説にまた新たな傑作が登場したとの思いが強い。
蛇足だが本書の表紙カバー写真の人物は、あの大迫傑(すぐる)氏だというのも粋な仕掛けだった。(文芸春秋・1980円)
評・関口苑生(書評家)