勝利至上主義に荒療治 小学生の柔道全国大会廃止

全日本柔道連盟(全柔連)が例年夏に開催している個人戦の全国小学生学年別大会を今年から廃止すると発表したことに対し、指導現場などで波紋が広がっている。子供たちが実力を発揮する場が失われてしまうと懸念する向きがある一方で、大会の存在が過激な練習を生む一因だったという声も。廃止の議論に携わった識者は、強さだけではない柔道の魅力を伝えることが、競技人口の増加につながるとの見方を示す。(竹之内秀介)

審判に罵声

「小学生の大会において行き過ぎた勝利至上主義が散見される。心身の発達途上にある小学生が勝利至上主義に陥ることは、好ましくない」

全柔連は3月、公式ホームページ(HP)で大会廃止の理由をこう説明した。

練習に励む柔道クラブ「大宮立志塾」の塾生たち=3月29日、さいたま市浦和区(竹之内秀介撮影)
練習に励む柔道クラブ「大宮立志塾」の塾生たち=3月29日、さいたま市浦和区(竹之内秀介撮影)

全柔連によると、大会は平成16年に初めて開催された。5、6年が重量級と軽量級に分かれて争う内容で、「小学生柔道の最高峰」(柔道経験者)として親しまれてきた。

ただ、大会での勝利にこだわるあまり、指導者が子供に厳しい減量や危険な体勢からの技を強いたり、保護者が審判に罵声を浴びせたりするなど、問題視されるような行為も確認されていた。ある全柔連関係者は「大会廃止という『荒療治』で、状況を改善したいという思いがあった」と明かす。

やっぱり悔しい

「柔道に取り組む小学生にとって大会は憧れの舞台だっただけに、廃止を残念に思っている子供は少なくない」

さいたま市を拠点に活動している柔道クラブ「大宮立志塾」代表の原田靖也(やすなり)さん(43)はこう話す。同クラブには小中学生や社会人など約50人が所属しており、大会への出場を目指して練習を重ねていた児童もいた。ある男児(11)は「廃止の理由は納得できるけれど、大会を目標に頑張ってきただけに、やっぱり悔しい気持ちは残る」と唇をかみしめた。

原田さんは「これだけ大きな大会を今年からいきなり中止するというのは影響が大きい。廃止自体はやむを得ないにせよ、廃止までの猶予期間を設けるなど、他のやり方もあったのではないか」と語った。

一方、柔道事故の被害者や家族でつくる「全国柔道事故被害者の会」代表の倉田久子さん(61)は大会廃止を肯定的に受け止めている。「本来スポーツは楽しい行為であるはずなのに、大会が存在することで小学生の時点で勝利を追い求め、過激な練習を生む土壌になってきた。競技との適切な距離感をつかむための良い転機になるのでは」との認識を示す。

背景に人気低迷

全柔連が大会の廃止を決断した背景の一つには、柔道の人気低迷もある。全柔連の登録者数は平成18年は約20万人だったが、令和2年には約12万人と4割減に。内訳を見ると、社会人は1割微増していたものの、小中高校生はいずれもほぼ半減していた。

「『勝ちを目指す柔道』では、多くの子供たちに柔道を長く続けてもらえないことがはっきり分かった。柔道の裾野を広げるために何が必要なのか、全柔連内部で長らく話し合われてきた」。バルセロナ五輪銀メダリストで、全柔連評議員として大会廃止の議論にも携わった日本女子体育大の溝口紀子教授(スポーツ社会学)は振り返る。

溝口さんは「実力が開花する時期は人それぞれ。幼少期の大会は一握りの『強者』を選ぶ一方で、その他大勢の芽を摘んでいた側面があった」と指摘。「強さだけではない柔道の醍醐味(だいごみ)を教えることが、柔道の人口を増やし、ひいては世界レベルで通用するような選手を生み出す道筋にもなる」と強調した。

五輪では日本のお家芸としてメダルを量産してきた柔道。幼少期の指導や育成はどうあるべきなのか。全柔連は大会の代替イベントとして、練習試合や柔道教室を実施する方針を示している。

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