近ごろ都に流行るもの

「産後パパ育休 トップが率先取得」 職場の理解 人と企業を成長

第1子誕生を機にパパ育休を取得した、manebi田島智也CEOと妻の菜月さん(重松明子撮影)
第1子誕生を機にパパ育休を取得した、manebi田島智也CEOと妻の菜月さん(重松明子撮影)

「上司や職場の理解がなかったから」「自分にしかできない仕事があったから」。男性正社員が育児休業を取得しなかった理由の2位と3位である(令和2年度、厚生労働省の報告書)。元年度で7・48%という低すぎる男性育休の取得促進を目指す改正育児・介護休業法が4月から施行。「産後パパ育休」の枠組みが創設された。ビジネス界では近年、企業トップが率先して育休を取得し体験を発信する潮流もある。そんななか、今まさにパパ育休中のCEO(最高経営責任者)の自宅を訪ね、気付きや思いを取材した。

テレワーク環境が渡りに船

第1子の娘の誕生から1カ月と5日目。「すぐ吐いちゃうし、すぐ湿疹できちゃうし、体温調整できないし。自分も妻も昼夜なしの睡眠不足で、交代でミルクやおむつ替えをしています。お母さん1人で密室育児なんて大変すぎる。産後鬱になってしまう」

従業員70人。企業向けに社員教育eラーニング事業を展開するmanebi(マネビ、東京都千代田区)の田島智也CEO(35)が、娘を抱きながら語った。

「最初は育休を取るのにためらいました。新事業を始める多忙な時期ですし」

人材サービス会社勤務の妻、菜月さん(28)の妊娠が安定期を迎えた昨秋、「1週間くらいでも育休を」と相談した男性社外取締役に背中を押された。「しっかり1カ月取った方がいいよ。それでも回る組織にしていくことも大事。パパ育休を進める、社内外へのメッセージにもなる」

CEOの育休宣言に、同時期に妻が妊娠していたCFO(最高財務責任者)も取得を決めた。「僕らが育休を取ることで組織に不安も生まれる。各部署の部長級に決定権を任せているが、重要な事案は遠慮せずにチャットを入れてもらっています」と田島CEO。それでもダイレクトなものは1日10通も来ない。新型コロナウイルス禍を機にテレワーク環境が整っていたことも渡りに船となった。

「自分にしかできない仕事というのは、本人の思い込みであることが多い。逆に1人だけで本当に代替がきかない業務があるなら、それを問題としてあぶりだせる。パパ育休は、個人と企業の成長につながると感じています」

話し込んでいた取材中。赤ちゃんがギャーッと泣きだすと、田島CEOが立ち上がって「作る?」と哺乳瓶を持ち出した。

「ありがとう、パパのおっぱい」と菜月さん。「気が利く夫だということに気付いたんですけど、すべてのだんなさんがそうではない。それでもすべての父親に、子育ての当事者意識を持ってほしい」

菜月さんの原体験から出た言葉だ。7歳のとき父親が家を出て、生活苦と過労で病に倒れた母親をケア。11歳、自らの意思で児童養護施設に入所した。「私自身が親以外の人にも育ててもらったので、子は母親が一人で抱え込まなくても育つと実感している。公的サービスも調べてどんどん活用したい。今も、自治体の産後ケアやヘルパーさんにうちに来てもらって、とても助かっていますよ」

田島CEOも小学生のときに工務店を営む父親を亡くし、母親が介護ヘルパーなどの仕事を掛け持ち、女手ひとつで育ててもらった。パパ育休でその重さをかみしめている。「妻と母への尊敬が深まった。愛、責任、感謝。母と父が自分に与えてくれたものを、妻と娘に渡し切りたい」

夫の家事・育児時間が長いほど妻が出産後も働き続ける割合が高く、第2子以降の出生割合も高まる傾向を厚労省は指摘している。冒頭の調査結果で、男性が育休を取得しなかった理由の第1位は「収入を減らしたくなかったから」だ。

経済協力開発機構(OECD)によると、日本は30年間も平均賃金が頭打ち。韓国にも抜かれた薄給の国で、父=大黒柱として一方的に頼られるなら、まさに〝男はつらいよ〟。賃金アップ対策もパパ育休とともに進めなければ、子供はなかなか生まれてくれない。(重松明子)

会員限定記事会員サービス詳細