スポーツの試合やトレーニング場面でデータやテクノロジーが広く用いられるようになってきました。野球中継では投球や打球の軌跡や速度が瞬時に表示され、トレーニングの場面ではバットや腕に機器を装着することでスイング速度を計測できます。サッカーでは走行スピードが表示されたり、プレーエリアがマップ表示されたりします。スマートフォンのアプリも使いやすくなっており、動画を2画面スローモーション表示できるものや、スクワットの角度を自動で測れるものもあります。スマホを腕に装着するだけで、ランニングやウオーキングの距離や速度だけでなく、ルートを表示してくれるものもあります。
私たちが一番身近にスポーツと接する機会は、スポーツ中継やニュースなどのメディアではないでしょうか。スポーツ中継では今後、攻撃や守備の戦術の善しあしがリアルタイムで表示されたり、ネット中継のアシスタントAI(人工知能)に選手の特徴や情報を問いかけると、AIが個別に選手情報を解説してくれたり…なんてことも実現するでしょう。
一方で、スポーツの「コツ」「センス」といった技術や感覚を数値化することは非常に難しく、課題も多く見られます。スポーツでデータサイエンスが広く普及するためには、スポーツをよく知る選手や指導者の経験をインタビューしてまとめていくことも大事なことです。
AIから得られた情報を人間が理解できるように解説することも、課題です。例えば、将棋ではAIが活発に使われていますが、AIによる最善の指し手はわかっても、なぜその手が良いのかは10手先、20手先を読めるトッププロにしか解説できない、ということもあります。
今後スポーツに限らず、社会全般でデータやAIと付き合っていく必要があります。便利な分析ツールを作り出す開発者の視点の一方で、私たちは「このようなツールをいかに使いこなすか」というユーザーの視点を持つことが重要になります。データと付き合う上で大切なのは、「データは対象の全てを示すわけではないけれど、その代わりに客観的な情報がわかる」ということです。データをすべてと思わず、部分的な情報として有効活用していくことが重要でしょう。
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びわこ成蹊スポーツ大学学長補佐、教授。博士(体育科学)。同大学サッカー部およびサッカーU17日本女子代表のフィジカルコーチを務める傍ら、スポーツ選手のスキルや戦術を数値化する研究を行う。びわこ成蹊スポーツ大学の特設ページは、https://biwako-seikei.jp/aidata/
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スポーツによって未来がどう変わるのかをテーマに、びわこ成蹊スポーツ大学の教員らがリレー形式でコラムを執筆します。毎月第1金曜日予定。