【シンガポール=森浩】米軍とフィリピン軍が8日までの日程で、過去最大規模となる恒例の合同軍事演習「バリカタン」を開始した。両軍から計約8900人が参加し、海上警備や人道支援などの訓練を行う。ドゥテルテ大統領の反米親中的な姿勢もあって隙間風が吹いた米比関係だが、ともに中国の覇権的な海洋進出などに危機感を強めており、演習を通じて中国への牽制(けんせい)を図りたい考えだ。
今回の演習は3月28日から始まった。ロレンザーナ比国防相は声明で「両国の同盟は強固で、地域が直面する安全保障上の課題に肩を並べて立ち向かう」と指摘した。
中国と対立が続く米国にとり、南シナ海に面する同盟国フィリピンの重要性は増している。ただ、ドゥテルテ氏は超法規的な麻薬撲滅作戦に批判的な米国に反発。フィリピン国内で米軍の活動を認める訪問軍地位協定(VFA)破棄を一時表明したことなどで米比関係はぎくしゃくしていた。
一方、中国はドゥテルテ氏の対中融和姿勢に乗じるように南シナ海への進出を続け、中比などが領有権を主張するスプラトリー(中国名・南沙)諸島周辺では中国船の停泊が常態化している。3月2日にはスカボロー礁(同・黄岩島)周辺で中国海警局の船がフィリピン巡視船に接近する事案も起きた。
ドゥテルテ氏は最近では対米強硬姿勢を軟化させており、ロシアのウクライナ侵攻をめぐっても「アジアに波及した場合、米国が国内の軍事施設を利用できるようにする準備がある」と発言したことが明らかになった。5月の大統領選後に退任するドゥテルテ氏だが、安全保障環境が不安定化する中、米国との同盟関係を強化したいとの思いが強まっているもようだ。