貧しいシングルマザーの家に生まれ、ひとりは裕福な家庭に引き取られ、ひとりは実母の元で育った双子の数奇な運命を、柿澤勇人とウエンツ瑛士が対照的に演じた。
30年前の日本初演時に双子の兄、サミーを演じた吉田鋼太郎が演出を担当。英国発の悲劇的なミュージカルをどう味付けるか、期待が高まる中、幕開けのオーバーチュアで一筋の暗い道を歩いてくるミセス・ジョンストン(堀内敬子)の姿を見て、一気に物語に引き込まれた。
妊娠を機に夫に逃げられたミセス・ジョンストンは双子を出産するが、家政婦として働く裕福な家のミセス・ライオンズ(一路真輝)から、双子の1人を欲しいと懇願される。念願の〝わが子〟を手にしたのに徐々に壊れていくミセス・ライオンズの一路は、品の良さの中に人間のエゴをうまく表現し、はまり役。
「ブラッド・ブラザーズ」のタイトル通り、ミッキー(柿澤)とエドワード(ウエンツ)という双子を主人公に据えているが、物語を支えるのはミセス・ジョンストンだ。愛情にあふれた伸びやかな歌声がすばらしく、繰り返される「マリリン・モンロー」の歌は特に耳に残る。物語が進むにつれ、精神を病み、睡眠薬を過剰投与して亡くなったモンローの生涯と、ミッキーに訪れる悲劇が重なっていくのがうまい。
同じ日に生を受けた2人を主軸に、持てる者と持たぬ者、解雇する側とされる側といった、あらゆる対比が描かれるのも示唆に富んでいる。持てる者と持たぬ者は時に入れ替わるし、幸せと不幸は同時に起こる。持てる者であるエドワードは愛するリンダ(木南晴夏)に思いを告げられずに去り、念願の子供を持ったミセス・ライオンズも満ち足りた日々を送ってはいない。ミッキーと幼なじみのリンダの結婚式と、従業員解雇の話が同時に進行するシーンも象徴的だ。
「血を分けた兄弟」であるミッキーとエドワードは、共に不器用でまっすぐな性格の持ち主。しかし、エネルギーを爆発させる動の柿澤、受け身で静のウエンツと、異なるアプローチで役に迫る。わんぱくな子供時代を全力で演じる1幕の「キッズ・ゲーム」から大人になった2幕への変化には驚かされ、役者とはかくあるべしと教えられた気分だ。
何よりも、とかく若い役者が活躍する作品が多い中、堀内のように円熟味を増した役者にスポットが当たる作品が上演されるのはうれしい。円熟味といえば、「レ・ミゼラブル」のジャベール役で新境地を開いた伊礼彼方も出色の出来だった。不吉な影をまとったナレーターとして、迫力ある歌声で悲劇的な運命を暗示した。
4月3日まで、東京・有楽町の東京国際フォーラムホールC。問い合わせは、03・3490・4949。愛知、久留米、大阪公演あり。(道丸摩耶)
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