対話で広がる「好き」への共感 フジッコ

テレビやインターネットを通じて情報があふれるなか、既存顧客とのつながりを重視し、従来の広告手法を見直す動きも加速している。豆や佃煮(つくだに)で知られる食品メーカー「フジッコ」(神戸市中央区)は新たなマーケティング戦略の軸として、インターネット上の「ファンコミュニティ(FC)」を始めた。趣味や価値観を共通する人が集うFCならではのコミュニケーションの広がりに、価値を見いだしている。

フジッコのヨーグルト商品
フジッコのヨーグルト商品

広告ヒットメーカーの新たな挑戦

フジッコといえば「フジッコのおまめさん」のフレーズに代表されるように、テレビCMによる発信を得意としてきた企業だ。当時大流行した山口美江さんの「しば漬け食べたい!」や、子供たちがコミカルに踊りながら「なんじゃ~こりゃ」とナタデココの独特の食感を伝えたCMなど、昭和~平成期にはヒット商品を生み出したものもある。

そんな同社が消費者との新たなコミュニケーションの場として始めたのが、「カスピ海ヨーグルト」や「まるごと大豆のヨーグルト」などをテーマとする「フジッコのヨーグルトコミュニティ」だ。「(全国消費者パネル調査などをもとに購入者層を分析してみると)フジッコのファンは年齢層が50~60代と高く、テレビを見ない若い人にはあまり知られていない。お客さんとのかかわり方を変えていく必要があった」と同社コア事業本部ヨーグルト・デザート事業部の入道知生(ともいく)部長(48)。「メーカーが一方的に発信するのではなく、お客さま一人一人の日々の暮らしのなかで、自然とフジッコに触れてもらえるような場にしたい」と、狙いを語る。

ヨーグルトコミュニティは、FC構築・運営大手のクオンが運営する、30以上の企業や団体のFCが集まる「〝絆〟のコミュニティ」内に設けた。約150万人が参加し、複数のFCを掛け持ちしながら自身の考えや経験談を他人と共有することを楽しんでいる活気に満ちたオンライン上の空間だ。新たなFCへの関心が高い参加者も多く、運営期間4カ月のフジッコFCにも20~30代を中心に約7千人が参加、1日90件近い投稿でにぎわっている(令和4年2月末現在)。

「すでに人が集まっているところに出店するので、スタートから反響があるのがありがたい。自社だけで1から集客すると、砂漠でポツンと立っているみたいな状況になりかねない」と入道さん。「将来的には全商品に拡げ、お客さまとのコミュニケーションのメインの場に育てたい」と意気込む。

同社コア事業本部ヨーグルト・デザート事業部の入道知生(ともいく)部長
同社コア事業本部ヨーグルト・デザート事業部の入道知生(ともいく)部長

主役は、一人一人の参加者

フジッコFCは、同社のファンだけでなく「フジッコがヨーグルトを作っているなんて知らなかった」という参加者も多いユニークな場となっている。同社からの商品紹介などの発信記事も月1~2本程度と控えめだ。一方で、商品の魅力やアレンジ方法を紹介する熱心なファンや、同社商品に限らずヨーグルト全般が好きな人が一定数おり、コミュニティにはヨーグルトの写真が毎日のように投稿されている。こうした投稿を中心に「おいしそう。私もやってみます」などと共感が広がり、購入にもつながっている様子がうかがえる。

「従来の広告では絶対できないトライアル(試行)の獲得の仕方」と、入道さんは強調する。同社では近年、ツイッターやインスタグラムなどのSNSを使って個人とのコミュニケーションに取り組んできたが、コミュニティの運営に関わる同部の敷田加寿美さん(37)は「メーカー発信のSNSや広告はメーカー対個人のコミュニケーションだが、コミュニティの主役は参加者一人一人。参加者同士のコミュニケーションのなかで、自然と生活にヨーグルトを取り入れていただいているのは、コミュニティにしかない反応だと思う」と、感慨深げに語る。

一方、同じく運営担当の中嶋太一さん(28)は、「ヨーグルトファン同士の言葉のやり取りや写真に商品開発のアイデアの種が転がっていそう」と、注目する。台所で撮ったような何気ない写真もあれば、受験生の息子のための験担ぎに「粘りのあるカスピ海ヨーグルトに勝栗を入れた」などの思いのこもった投稿などもある。「お客様相談室へ届くような熱量の高い声とはまた違って、いい意味でゆるい雰囲気があっていい。他人や私たちからのレスポンスさえ期待してはいないような素直な投稿で、驚きや気づきも多い」と、価値を感じている。

同社コア事業本部ヨーグルト・デザート事業部の中嶋さん、入道さん、敷田さん(左から)
同社コア事業本部ヨーグルト・デザート事業部の中嶋さん、入道さん、敷田さん(左から)

お客さまと一緒にものづくり

フジッコは創業以来、商品開発や経営において「顧客の声」をとくに重視してきた。本社や東京FFセンター(東京都文京区)のオープンキッチンで主婦向けや子供向けの料理教室を開くなど、顧客との交流も盛んだ。新型コロナウイルス禍でもオンラインイベントや顧客とのウェブ座談会などを開いてきた。

とくに熱心な顧客からの要望やクレームを受け取る「お客様相談室」対応には重点を置く。相談室に届いた意見から課題を抽出し、対策を議論する「お客様情報会議」の対応は、経営層から生産部門に至る全部門で最優先事項とされる。毎月開かれる会議に備えて、各部門の担当者は顧客の声を全件、「不具合」や「提案」などカテゴリごとに分け、さらに重要度別に整理する。「簡単そうに見えて難しい要望も多いので、非常に緊張感のある会議。今はメールで回覧しているけれど、昔は案件ごとのファイルが何百冊も社内を回っていた」と、入道さん。令和2年度は100件の課題を検討し、うち93件に対応した。

こうした伝統があるからこそ、入道さんはコミュニティの対話の広がりに期待する。コミュニティでの意見を蓄積し、生産部門や企画部門へも共有していく仕組みを作っているところだという。「魅力的な商品が増え、おいしい、知っている、だけでは選ばれなくなってきた。お客さん同士が会話を楽しみながらそれぞれの知識を高めていける場を提供し、ブランドに親しみを持ってもらいたい」と入道さん。「ゆくゆくはコミュニティに社員も加わって一緒に勉強させてもらい、『お客さまが本当に欲しいもの』を作っていきたい」と、話している。

「フジッコのヨーグルトコミュニティ」を運営する、同社コア事業本部ヨーグルト・デザート事業部
「フジッコのヨーグルトコミュニティ」を運営する、同社コア事業本部ヨーグルト・デザート事業部

提供:クオン株式会社

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