3月28日に千葉市美浜区のホテルニューオータニ幕張で開催された千葉「正論」懇話会(会長・千葉滋胤千葉商工会議所顧問)の第74回講演会。元海上保安庁警備救難監の向田昌幸氏が、「どう守る尖閣 問われる日本の主体性と覚悟」と題し、熱弁を振るった。尖閣諸島(沖縄県石垣市)の警備を現場対応に任せきりにしていることに強い懸念を示し、政治・外交が対策を取るべきだと訴えた。海保での豊富な現場経験を持つ向田氏の話に、来場者は真剣に聞き入っていた。
向田氏は、中国公船が尖閣周辺の日本領海へ侵入するようになった経緯を説明。当初は民間の領有権主張運動だったが、平成22年の中国漁船衝突事件後に政府公船が目立つようになり、24年の尖閣国有化を契機に「領海侵入が徐々に常態化してきた」とした。
また、これまでに起きた国防上の重大事案を列挙し、他国による主権侵害に対して抑止力が機能していないと力説。13年に海保が北朝鮮の不審船を追跡して銃撃戦になった「九州南西海域工作船事件」の記録映像を紹介し、警察権による対処の限界と危険性について説明した。
中国は、海上警察・法執行機関を海警局として再編し、軍事的な役割も付与したと指摘。中国側の狙いについて、「東シナ海や南シナ海の島嶼(とうしょ)の領有権や海域の管轄権をめぐって対立している関係当事国に対し、海上警察機関の仮面を被った軍事機関の海警局を前面に出して威圧・威嚇することだ」と警鐘を鳴らした。
日本側の対応については、政府が(組織的・計画的な武力攻撃とはいえない程度の侵害行為に対する)「マイナー自衛権」の行使を制約していることが、無防備さの背景にあるとした。「自衛隊が平素からマイナー自衛権を行使し、国防機関としての任務を遂行できるようにすることを前提に、海保の警察権による対応からシームレスな形で自衛隊に引き継ぐのが本来の姿だ」と強調。現場対応に終始するのではなく、国防政策そのものを改めるべきだとした。
日本は、米国に中立・不関与の立場の撤回を求めるとともに、尖閣問題に関する国際社会の理解の醸成を図る必要があると強調。具体策として、尖閣を「特定離島」に指定して有効支配体制を強化することなどを挙げた。また、旧民主党政権時代に野党だった自民党の政策提言に、「尖閣に公務員を常駐させる」という項目があったと指摘し、政府・与党に対応を促した。
講演後、向田氏は「自国の独立と平和と安全は自らの手で守るという本来の姿に立ち返るべきだ。そのためにも国民が、自衛隊に対する文民統制(シビリアンコントロール)に自信を持って、政治家の背中を押すときだ」と付け加えた。
むかいだ・まさゆき 昭和27年、広島県生まれ。50年、海上保安大学校卒。巡視船勤務を振り出しに旧運輸省、在蘭日本大使館、内閣官房への出向のほか、根室海上保安部長、第八管区海上保安本部長、海上保安庁警備救難部長、警備救難監などを歴任し、退官。退官直前の3年間は、ソマリア海賊の逮捕・移送、南氷洋調査捕鯨等妨害対策、東日本大震災への対応などを指揮。日本水難救済会理事長を経て、東京湾海難防止協会理事長。著書に「尖閣問題の現状と展望」。