【ワシントン=渡辺浩生】米国防総省のカービー報道官は29日の記者会見で、ウクライナの首都キエフ郊外に配置されたロシア軍部隊の一部が後退を始めたと明らかにした。同氏はロシアはキエフを制圧してウクライナを支配下に置くとの目標の達成に失敗したとし、後退は「撤退ではなく再配置」だとする見解を示した。一方、キエフ周辺や各地では30日にかけても戦闘や露軍の攻撃が続き、現時点で緊張緩和の兆候は見られていない。
29日の停戦交渉で、ウクライナは、国連安全保障理事会常任理事国の米英仏中露などによる安全の保証と引き換えに北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念する「中立化」などを受け入れると表明。ロシア側はこれを評価し、「交渉の進展を促す信頼醸成措置」としてキエフやチェルニヒウなど北部で「軍事活動を大幅に削減する」と表明した。露部隊の後退はこうした決定に対応した措置とみられる。
ただ、北部ではかねて露軍の停滞と苦戦が伝えられてきた。カービー氏は移動した部隊は「少数」だとし、今後も攻撃に備える必要があると指摘。ウクライナ軍参謀本部や英国防省も、露軍は補給を整え、攻勢を維持する東部地域などに戦力を集中させる思惑だとする分析を示した。
停戦交渉では一定の前進があったものの、ウクライナ側は、停戦合意案の是非を問う国民投票を実施するためには露軍の完全撤兵が必要だと主張。だが、ロシアが応じる可能性は低い。
さらに、プーチン露大統領は、停戦には2014年に併合した南部クリミア半島への露主権の承認と、親露派が実効支配する東部地域の「独立」をウクライナが承認する必要がある-と主張してきた。ウクライナ側はクリミアと東部について継続協議とすることを提案したが、プーチン氏が容認するかは不透明だ。
ウクライナから国外に避難する住民の動きも続いており、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は30日までに、難民が400万人を超えたと発表した。