停戦交渉で注目の露大富豪 善意か巧妙な処世術か

アブラモビッチ氏(ロイター=共同)
アブラモビッチ氏(ロイター=共同)

プーチン政権と親密な関係が指摘され、欧米などの制裁対象となるロシアのオリガルヒ(新興寡占資本家)の間で存在感を示す人物がいる。ウクライナ側の要請を受け、停戦交渉にも関与しているロマン・アブラモビッチ氏(55)だ。ロシアのエリツィン政権下で巨万の富を得て、プーチン大統領にも忠誠を示し生き残ったとされる同氏は、今回の危機でも巧妙に立ち振る舞い、荒波を泳ぎ切ろうとしている。

29日にトルコ・イスタンブールで行われたロシア・ウクライナの停戦交渉。その部屋の隅で、協議に聞き入るアブラモビッチ氏の姿に各国メディアの注目が集まった。直前にはウクライナ側の交渉参加者らとともに、毒物を盛られたとも報じられていたからだ。

英紙フィナンシャル・タイムズによれば、ウクライナ政府は交渉促進に向けロシア語話者のユダヤ系協力者を探しており、その呼びかけにアブラモビッチ氏が応じたという。

アブラモビッチ氏は1990年代、ソ連崩壊後の経済混乱のなか石油利権を獲得して資産を築いた。当時のエリツィン政権と緊密な関係にあり、財政面でも同大統領ファミリーを支えたと指摘されている。

エリツィン政権末期の99年には、極北のチュコト自治管区選出の下院議員に転じる。不逮捕特権が目当てとも批判されたが、プーチン氏が大統領に就任した2000年には同管区の知事となり、巨額の自己資産を同管区に投じ始めた。

消息筋は、プーチン政権との間で「膨大な資産をロシア再生に投入するなら過去は問わない」との密約があったとも指摘する。エリツィン政権下で権勢を振るったオリガルヒの逮捕や不審死が続くなか、アブラモビッチ氏はその地位を維持し続けた。

ロシアのウクライナ侵攻開始後、アブラモビッチ氏はオーナーを務める英名門サッカーチーム「チェルシー」を売却して被災者支援に充てると表明するなど、国際社会の対露批判に同調するかのような姿勢も見せた。米メディアは、ウクライナのゼレンスキー大統領がアブラモビッチ氏を制裁対象に加えないようバイデン米大統領に進言したとも伝えている。

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