露、ウクライナ住民を大量連れ去りか プロパガンダに利用も

28日、東部マリウポリで破壊された建物の外のがれきに立ち、パンを食べる人たち(ロイター)
28日、東部マリウポリで破壊された建物の外のがれきに立ち、パンを食べる人たち(ロイター)

ロシア軍の激しい攻撃にさらされるウクライナ東部から、大量の住民が露側に連れ去られているとの懸念が強まっている。逃げ場を失った住民が露軍兵士により移動を促されている実態も浮かび上がる。ロシアの国営メディアは住民を〝保護〟しているとの主張を展開。露側は住民の帰還を停戦交渉で有利な条件を引き出すカードに利用する思惑だとも指摘されている。

露軍が包囲を続けるウクライナ東部マリウポリの市議会は24日、露側に住民約1万5000人が連れ去られたと主張した。東部のスタニツァルガンスカヤやボルノバハからも連れ去りがあったとされ、ウクライナ政府は全土で約4万人が連行されたと主張している。マリウポリ市住民は英BBC放送に対し、露軍兵士に市からの退去を求められ、親露派武装勢力の支配地域に連れていかれたと証言した。

住民は同地域にとどまるか、露国内に移動するかを決めるよう要求されたという。住民らは食べ物や水も枯渇するなど厳しい状況に置かれ、兵士の要求を拒否することは事実上不可能だったとみられる。

ウクライナ外務省は24日に声明を発表し、マリウポリで連れ去られた1万5000人のうち6000人は露軍により「選別収容所」に送られたと非難した。ウクライナ側によれば、住民らは選別収容所で電話の交信記録や対面での調査を受ける。ロシア連邦保安局(FSB)がウクライナ軍関係者などと照合するためのリストも用意しているという。

住民らはその後各地に送られ、雇用を提供される一方で2年間は出国を禁じられる。行き先にはサハリンなど経済的に立ち遅れた極東も含まれているという。

一方、ロシア側ではこうした行為は〝美談〟として伝えられている。政府系の国営ロシア通信は20日、モスクワ北方のヤロスラブリにマリウポリから避難民480人が到着し、地域の保養施設に宿泊するなどと報道。避難民らは「もう地獄(マリウポリ)には住めない」「ロシアに住むことが夢だ」と語ったとした。

日本在住のウクライナ人政治学者、グレンコ・アンドリー氏はロシアがマリウポリ市民らを露側に連れ去った狙いについて「住民らにカネを渡すなどして懐柔し、ロシア国内向けのプロパガンダ(政治宣伝)に利用する」ためと指摘した。

グレンコ氏は露側が停戦交渉を優位に進めるため住民の帰国を交渉の「カード」に利用する可能性があるとも分析する。ロシアはウクライナ東部支配に注力しており、さらに多くの住民が露側に引き入れられる事態も懸念される。(黒川信雄)

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