トルコで29日に行われたロシアとウクライナの停戦交渉では、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟しない「中立化」の方針を伝えるなど一定の歩み寄りがあった。ここにきてロシアも、首都キエフ方面での軍事行動が停滞しているのを背景に交渉姿勢を軟化させつつある。ウクライナが自国の安全保障のために求めている国際的な枠組みづくりなどが次の焦点になりそうだ。
ロイター通信によると、ウクライナの交渉当事者は関係国による安全保障の枠組みができた後に「中立国」の立場を受け入れると説明。ウクライナの安全を保証する国の候補としてはポーランド、イスラエル、トルコ、カナダを挙げた。
ロシアはウクライナのNATO加盟が自国の「脅威になる」と主張し、「中立化」を侵攻目的の一つとしてきた。ウクライナの提案に対するロシアの反応は報じられていない。
ウクライナをめぐっては、米英露がウクライナの安全を保証するとした1994年のブダペスト覚書がロシアによって破られている。関係国による「安全の保証」が具体的にどう行われ、それが「中立国」の地位と両立するのかといった不明点が残る。
プーチン露政権は最近、ウクライナに対する要求内容を後退させていた。
当初のロシアはゼレンスキー政権を「ネオナチ」と称し、「非ナチス化」を掲げて政権転覆を画策。しかし、パトルシェフ国家安全保障会議書記は28日、「軍事作戦は政権交代を求めるものでない」と述べた。ロシアはウクライナの「非軍事化」も主張していたが、ロシアの脅威とならない軍備は容認する考えに転じた。
ロシアが2014年に併合を宣言したウクライナ南部クリミア半島について、ウクライナは15年間の協議期間を設けることを29日の交渉で提案した。東部で親露派武装勢力が実効支配する地域についても、ゼレンスキー大統領は「(2月)24日の開戦前の状況に戻そう」と呼びかけていた。
ゼレンスキー政権は、クリミアや東部の主権放棄は拒否しつつ、露軍をウクライナ全域からすぐに撤退させるのは難しいと判断しているもようだ。
ゼレンスキー氏は、停戦で合意するにはプーチン大統領との直接会談が不可欠だとしてきた。安全保障に関しては国民投票に諮る必要があるとも述べている。プーチン氏の出方が注視される。(黒川信雄)