主張

アカデミー賞 世界が認めた邦画の深み

またも快挙である。映画界最高峰、米アカデミー賞の国際長編映画賞に濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」が選ばれた。

2019年までは外国語映画賞と呼ばれ、日本映画では、09年の「おくりびと」(滝田洋二郎監督)以来、13年ぶりだ。今回は初の作品賞と脚色賞、さらに監督賞の計4部門にノミネートされていた。惜しくも他は逃したが、最高の栄誉とされる作品賞の候補となったことも意義深い。新時代を迎えた日本の映画界を祝いたい。

作品は世界的な人気作家、村上春樹氏の短編小説が原作だ。妻を亡くした舞台演出家の喪失と再生の物語を専属運転手の女性との対話を通じて繊細に描いた。同じ短編集の他作品や演劇、オリジナル要素も盛り込み、より深みのある作品に仕上げた手腕が光る。

近年、アジア系への評価が高まっていた。一昨年は韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が非英語作品としては初の作品賞を受賞した。昨年は米映画「ノマドランド」で中国出身のクロエ・ジャオ監督が監督賞などを受賞した。

背景には、映画芸術科学アカデミー(AMPAS)による改革もあるのだろう。いわゆる「白すぎるオスカー」と呼ばれる人種差別問題やセクハラ問題に揺れてきたからだ。批判を受け、アカデミーは女性やアフリカ系などのマイノリティーや海外の会員を増やすなどの改革を進めてきた。

長引くコロナ禍も無縁ではないようだ。昨年11月からロングランを続けているニューヨークでは、家族や友人を亡くした人々の喪失感や悲しみと向き合うなかでの心の再生というテーマが、観(み)る人に響いたのではないか。

作品は「家族」を主題にした日本のお家芸ともいえる。

大規模な資本を投入した娯楽作でもなく、強い社会的メッセージ性があるわけでもない。上映時間は約3時間におよび、長いがじっくりと味わう深さがある。

その一方で、これまでの日本の作品に漂うオリエンタリズムやエキゾチシズムとは一線を画した点も挙げておきたい。

映画は社会を映す鏡である。コロナ禍で生活様式や価値観が大きく変わる中、世界が日本映画の持つ精神性を再確認し、再評価した結果だろう。濱口監督は43歳と若い。さらなる活躍を望みたい。

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