話の肖像画

田尾安志(28)長男と真剣に向き合って

長男、耕太郎さんと釣りをする
長男、耕太郎さんと釣りをする

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《長男の耕太郎さん、次男の洋輔さん、長女の志織さんの3人の子供に恵まれた》


上の2人が男の子でね。長男は歯医者ですが、大学まで野球は続けていました。高校時代はエースで「プロ野球選手になりたい」と言ったことがあります。でも僕は「絶対に無理、なれない」と諭しました。後になって、その言葉は言っちゃいけなかったのではないか、背中を押してあげた方がよかったのではないか、と反省しました。素質がないと思った選手がプロで活躍するケースも目の当たりにしてきました。そういうことから、今は僕の目が全部正しいわけじゃないと思っています。


《耕太郎さんは高校生のときに一度、野球部を退部した。家族での旅行を優先したのが理由だった》


2年生の夏の大会のことです。負けていたら問題はなかったのですが、勝ったことにより、次の試合の日程がわが家のカナダ旅行とかぶりました。そこで長男が「自分もカナダに行きたい」と言い出したんです。僕が「野球はどうするんだ」と尋ねると、「野球はいつでもできるけど、カナダへは家族ではもう行けないかもしれない」と言うんです。無理やり、とってつけた理由のようでした。「お前それはね、人間として失格だ。みんながお前をエースとして期待しているんだぞ。それを見捨てていくのか」と話して考えを改めさせようとしましたが、それでも長男は「行きたい」と言って譲らないんです。結局、野球部を辞めるということで一緒にカナダに行きました。

何カ月かして、長男は「また野球がしたい」と言い出しました。最初は「そんな虫のいいことを言うな」と叱りました。それでも「周りの部員には謝った。1人だけダメだと言っているが、他のみんなは納得してくれた」と言うので、「試合に出られると思うなよ。ボール拾いするだけだぞ」と話して、もう一回野球部に入れてもらうことにしたんです。


《しかし、再入部はすんなりとは決まらなかった。反省する息子のために、田尾さんも奔走した》


でも、そのときの部長さんが長男の再入部を拒否しました。電話で「若気のいたりで本当に間違った行動をとりましたが、見捨てるのではなく、もう一度やらせてみるのも教育じゃないでしょうか」とお願いしたのですが、「納得できません」と言われました。こちらもだんだん熱くなってきて「それが教育者か」と言ってしまいました。それで学校に行って、校長先生と話すことになったんです。「本人は試合に出ない、ボール拾いだけでもさせてほしいという気持ちです。みなさんにご迷惑をおかけしたことも分かっています。ボール拾いだけでも、させてほしい。それも認めないのは納得がいきません」と主張しました。校長先生は「そういう(反省して再挑戦する)ものを学校としても、育てていかなきゃいけないと思っています」と受け入れてくれました。

結局、長男は野球部に復帰したんですよ。3年生の夏の大会では試合で投げていました。あれは、いい人生経験をしたと思います。チームメートを裏切るという、一番やっちゃいけないことをして、むちゃなことを言って、最終的に親である僕が子供の味方をしたことが、たぶん今も記憶に残っていると思います。

あそこで、僕が最後まで「お前が悪い」で終わらせていたら、違う親子関係になっていたかもしれません。学校まで乗り込んで、味方をしてくれた。本人も連れて行きましたからね。やり取りを全部、聞いていたわけです。そういうところから、いい父親像ができていたらうれしいですね。(聞き手 北川信行)

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田尾安志氏連載「野球が全部教えてくれた」

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