いまから100年以上も前に南極沖で沈没した探検船「エンデュアランス号」が、このほど海底3,000mの地点で発見された。悪天候や分厚い海氷で悪名高い地域にもかかわらず保存状態は良好で、まるで前日に沈んだばかりのようだったという。いったいなぜなのか?
探検家アーネスト・シャクルトンと27人の調査隊員が南極大陸周辺の冷たい海域に到着したのは、1914年も終わりに近付いたころだった。当時としては最新鋭だった探検船「エンデュアランス号」は全長144フィート(約44m)で3本のマストがあり、船体は流氷に当たっても壊れないよう強化されていた。
この探検船で南極へと向かった隊員たちは、凍てつく南極大陸を横断する計画だった。しかし、海がそうさせなかった。
エンデュアランス号は沖合で立ち往生し、流氷にゆっくりと押しつぶされてしまったのである。隊員たちはその後、史上最も有名な生還劇となる冒険へと放り出されることになった(この探検を描いたアルフレッド・ランシングの本はおすすめなので読んでほしい)。
それから探検家たちは1年以上も漂流し、流氷の上を駆け回ってペンギンやアザラシを狩り、やがて無人島へとたどり着く。そこからシャクルトンは隊員数名と、エンデュアランス号から外した小舟で800マイル(約1,290km)を航海し、サウスジョージア島に上陸した。捕鯨基地まで歩くと、そこから残りの隊員を救助しに船で戻ったのである。
この冒険劇から100年以上が経ったいま、科学者たちは新たな最新鋭の探査機を使い、長らく行方不明だったエンデュアランス号の姿をついに捉えた。南極のウェッデル海で砕氷船から吊り下げられた水中ロボット「Sabertooth」が水深約10,000フィート(約3,000m)の海底へと潜航し、ソナーを発信して海底の様子を調べたところ、船に間違いない反応が見つかったのである。そこでロボットのカメラを作動させると、驚くほど保存状態のいい木造船の映像が写っていたのだ。
「シャクルトンと隊員たちの物語という歴史的な観点でも大きな成果であると同時に、技術的な観点でも非常に大きな成果です。エンデュアランス号は探すのが非常に難しい沈没船のひとつでしたから」と、フォークランド海洋遺産財団が主導した今回の調査で海底プロジェクトマネージャーを務めたニコ・ビンセントは語る。
悪天候と海氷を避けての調査
エンデュアランス号の探査が難しかった大きな理由は、悪天候で知られる南極の天気と、ぶ厚く動きの予測できない流氷である。それらは調査隊の砕氷船「S. A. Agulhas II」の前にも立ちはだかった。
とはいえ、S. A. Agulhas IIがエンデュアランス号と同じ運命をたどることを心配する人はいなかった。「本当にS. A. Agulhas IIは素晴らしい船です」と、ビンセントは言う。「厚さ1.5mの氷のなかを8ノット以上で航行できる砕氷船は、これまで見たことがありません」
問題は、海氷の塊があると全長が12フィート(約3.6m)あるSabertooth(そりの形に似ている)を海底に降ろせなかったり、ロボットと船をつなぐ細い光ファイバーのケーブルが切れたりしてしまうことだった。そこで研究者たちは、周囲の海氷の動きを予測するために衛星データを活用した。Sabertoothを海底に下ろしてからは砕氷船の操縦士がプロペラを回し、船の周りに海氷を近づけないようにしている。